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みんなのDX
~デジタル変革はどう進む?政治と考える、社会の目指すべき姿~


自民党副幹事長 衆議院議員
小林 史明氏

楽天グループ株式会社 執行役員
アド&マーケティングカンパニー ヴァイスプレジデント 広告事業事業長
紺野 俊介

 

 


 

「押印の廃止」は大いなる改革の1つ目のマイルストーン

紺野:このセッションは小林史明衆議院議員をお迎えして進めてまいります。お話をいただく前に、改めて「DX(デジタルトランスフォーメーション)」について簡単にご説明します。

DXは、2004年頃から「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い生活を変化させる」というキーワードで徐々にビジネス用語になりました。DX化する社会の中で、楽天もコマース、フィンテック、そして広告領域などで様々な取り組みを行っています。

政治や行政ではDXをどう考えているのでしょうか。

 

DX化する社会

 

小林氏:政府としては、社会制度をトランスフォーメーションする機会と考えています。

最近みなさんも「一生懸命やっているが日本が前に進んでいる感じがない、成長している実感がない」と感じているのではないでしょうか。その理由として、国の社会制度を含む、いわゆるインフラが時代に合わなくなってきていると私は捉えています。法律や制度や慣習がみなさんの新しい取り組みを邪魔しているのではないでしょうか。

紺野:実際に民間企業でも、DXに取り組む中でよく問題になるのがトップ層や中間管理職がDX化に何かしらの制約事項を与える、あえて言うなら邪魔をすることかもしれません。

小林氏:具体的なイメージが湧かないと、今までやってきたことが失われてしまうのではという不安や、変化に対する危機感を持たれる方は多いですよね。だから私は、みなさんにわかるような成功体験を作ってきました。

例えば、2020年4月から取り組んできた「押印の廃止」。これはただ判子を廃止することではなく、大いなる改革の1つ目のマイルストーンです。日本の法律を見渡してみると、押印という手段を限定したルールが48の法律に書かれていました。

他にも「対面」や「目視」などのルールが、法律の中で約5,000見つかりました。実は3年間で全てのルールを変えようと思っているのですが、まずは押印廃止に取り組みました。

紺野:諸外国と比較した時、日本は変革に対して若干時間がかかる印象があります。法律が、インターネットやデジタルがなかった時代に作られたというのもあるかもしれませんが。

小林氏:法体系をざっくりと整理すると、欧米の法律は「ブラックリスト方式」です。これだけはやってはダメと書いてあるので、書いていないことはやりやすい。日本の法体系はどちらかというと「ホワイトリスト方式」で、やっていいことが書いてあります。だから、書いていないとやれない。ここが大きな差としてあると思います。

 

小林氏

 

 

リアルタイムのデータを政策に活かした「成功体験」

紺野:「データ」に関して政府はどのように見ているのですか。

小林氏:私はデジタル庁副大臣の前にワクチン担当の大臣補佐官でした。当時、政府としておそらく初めて、毎日更新されるデータを見ながら政策を実行しました。コロナワクチンを打ち始める少し前の時期です。

紺野:それまでは政策にリアルタイムのデータを活用したことがなかったということですね。

小林氏:国の統計は多くても1年に1回、国政調査も5年に1回とサイクルが長いですよね。なぜかと言うと、情報を集めるのにコストがかかるからです。

コロナワクチンに関しては、全国の自治体が毎日、国が用意したクラウドのデータベース上に、いつ、誰が、どこで、何のワクチンを打ったかをタブレットから入力しました。そうすると、どの自治体が早いもしくは遅れている、それはなぜかという検証が毎日できます。全自治体が同じデータを見られるようにしました。

そして、医師会などのステークホルダーにも共有し、みんなが毎日同じ情報を見ながら意思決定するという、DXされた民間企業なら当然のようにやることを、国として初めて行いました。これはとても大きな成功体験でした。

紺野:その成功体験を実現するためには、ハード面の準備も必要ですし、ソフト面で実現する人も必要だと思いますが、どのくらい揃っていたのでしょうか。

小林氏:これはぜひ誤解を解いておきたいのですが、官僚や霞ヶ関にはデジタルを使えない人ばかりではありません。むしろ、能力は高いのですが、ルールで縛られているからできなかったことが多いのです。

今回も、クラウド上で国民の情報を預かり、マイナンバーをキーに情報を管理するにあたって、既存の法律の解釈について整理が必要でした。個人情報保護法がある中で、政府がマイナンバーを使って全国民の情報をクラウドに上げ、ワクチンを管理して分析をすることに対して、ルール整理がされていませんでした。そこで「政府は自治体と国民の個人情報は見ずに統計データだけを見る」という重要なルールを整理できたことにより、データを存分に使うことができました。

 

 

ビジネスチャンス創出のヒントとは

紺野:おそらく多くの民間企業も、カルチャーという名のルールがたくさんあるが故にDXを含めた変革が起きにくい状況です。政治では、今後さらにルール改革を進めるために何をしていこうとされているのでしょうか。民間企業はそれに倣って何をしていけばよいと考えておられますか。

小林氏:今後、国として「対面」「目視」「常駐選人」などを全法律から洗い出して、既存のルールを横断的に見直していきます。民間のみなさんには、国のルールが変わるから社内ルールも見直そう、と動き始めてほしいです。例えば、今まで建設現場で「目視」していたことがドローンやセンサーカメラでできるようになります。仕事のやり方も大きく変わるでしょう。

この国の法律には5,000ルール、通知通達ガイドラインと言われる中には、約15,000ルールあります。これだけルールが変わると全てがビジネスチャンスになるので、チャンスとして捉えて踏み出していただきたいです。

紺野:企業側は政治行政の変革をどう理解し、ビジネスチャンスを見出していけばよいのでしょうか。

小林氏:私も5年ほどサラリーマンをした経験がありますが、古い法律によってアンフェアな思いをしたので、ルールを変える側に回りたいと考えて政治の世界に入りました。

もし当時に戻れるなら、政府のいろいろな検討会議の資料を確認すると思います。これらは基本的に全て公開されています。例えば、1ヶ月に1回行われている「デジタル臨時行政調査会」の資料を読むと、3年後の未来が書いてあります。もちろん我々からも届ける努力はしますが、ここからビジネスチャンスが広がると思います。

 

小林氏

 

 

今後、日本にもたらされる3つのチャンス

紺野:コロナ禍によって結果的にDX化を進めざるを得なくなった企業もたくさんあると思います。

小林氏:コロナは大きなきっかけでした。DXによる次のチャンスは3つあると思います。

1つ目は、この人手不足。これからもずっと人手不足が続く中で事業を続けていくためには、早くDXを推進し、多くの人にとって「働きたい職場」になる必要があります。そうした企業が勝ち残る世界がやってきます。

2つ目は現在進行している円安です。国内から海外への輸出がチャンスになってきています。その際、個人事業主が物流やECサイトをオープンするのは大変ですが、今はプラットフォーマーがたくさん出てきているので、そこで世界に向けてマーケットを広げるチャンスが広がっています。

3つ目はインバウンドです。コロナ禍中に、ワールドエコノミックフォーラムの「世界の観光したい国ランキング」で日本は1位になりました。3000万人の観光客が来日していた時でも20位くらいでした。10年経たないうちに、1億人を超える外国人観光客が日本に訪れるようになると思います。その人たちをどうやって受け止めるのか。やはりここも事業のトランスフォーメーションをしていくとチャンスが広がるのではないでしょうか。

 

 

社会環境の変化にビジネスをどのように合わせていくか

紺野:楽天もプラットフォーマーとして、そして日本企業として、様々な取り組みを増やしていかなければなりませんね。

小林氏:政治家として地方を歩くと、各地域に魅力ある事業者がたくさんいると感じます。そんな地方の事業者が海外マーケットに出るためには、プラットフォームが必要です。北米やヨーロッパだけでなく、これから人口が増えるアジア、アフリカにも進出のチャンスを創出できるようになるといいですね。

雇用の3割は東京の企業ですが、残りの7割は中小企業で特に地方に多いです。その人たちが収入を増やして豊かになることが個人消費の増加に繋がり、個人消費が上がると日本経済全体が良くなり、大企業にとってもマーケットが大きくなるという循環が生まれます。

全国にある7割の地方事業者のみなさんがグローバルにマーケットを広げていくためのプラットフォームを期待しています。

紺野:ありがとうございます。政府がDXを進めていった先に望むのは、どのような世界ですか。

小林氏:日本、特に地方に足りないのは、3つのD、「デジタル」「デザイン」「ダイバーシティ」です。

「デザイン」による付加価値の高いものは全国にありますが、クリエイティブな人材が都市部に集まりすぎている傾向があります。デジタルはそれを解消できると思います。

もう1つ重要なのが「ダイバーシティ」です。日本で企業や組織に属して、人種や年齢や性別に関わらず個人の能力や意思が自由に発揮されているかというと、まだまだです。しかし、デジタルの世界では1人1人をIDで見つけられます。楽天なら楽天IDですが、政府ならマイナンバーがあることで個人にフォーカスした政策を実現できるようになります。

デジタル化が進む世界では、個人がもっと自由になり、活躍できる多様な人材がルール形成にも参画できるようになります。よって、フェアな社会制度ができ、さらに多様性が発揮され、エネルギーが大きくなっていく。そんな世界を目指したいですし、今、その方向に進んでいると信じています。

 

小林氏

 

 

セッションまとめ

紺野:楽天も社会をエンパワメントしていくことを掲げている会社なので、今日いただいた様々なご意見を元に、様々な形で取り組んでいきたいです。最後に、小林さんの次のチャレンジについて教えてください。

小林氏:これから、昨年政府で立ち上げたデジタル臨時行政調査会で、日本の法令やガイドラインなど全てをデジタル社会に適合したものに転換していきます。ルールを一気に改正すること自体が挑戦的ではあるんですが、それと同時に狙っているのは、みなさんに「ルールは変えられる」と感じてもらうことです。

他人に決められたルールの中で生きていくことは、時に苦しい。フェアじゃない思いを繰り返すたびに、どうせルールは変わらないと諦めてしまい、やがてルールに自分をどう合わせていくかを考えるようになり、エネルギーが失われていってしまいます。

私はそれを変えたくて政治の世界に入りました。ぜひみなさんに、ルールは変えられる、もっと自由に生きていけるし、ビジネスができると感じてもらえるように活動していきたいと思っています。

紺野:ぜひ一緒にイノベーションと新たなオプティミズム的思想で、次の日本を作り、グローバルに戦っていきたいと思います。ありがとうございました。

 

 

小林 史明氏
小林 史明氏Kobayashi Fumiaki
自民党副幹事長 衆議院議員


「テクノロジーの社会実装で、多様でフェアな社会を実現する」を政治信条に、規制改革に注力。
デジタル規制改革、情報通信改革、公務員制度改革、水産改革など、社会の発展を阻む古い規制の見直しに取り組んでいる。初当選以来の10年にわたる規制改革への取り組みから、規制改革を加速する必要性を強く認識し、デジタル臨時行政調査会の立ち上げを提案し、創設。デジタル副大臣兼内閣府副大臣として、規制改革、行政改革、個人情報保護、サイバーセキュリティ、PPP/PFIを担当しながら、デジタル臨調事務局長も務めた。菅内閣では内閣府大臣補佐官としてワクチン接種促進事業を担当し、VRSの開発運用を牽引。それ以前は、自民党第50代青年局長としても全国組織のデジタル化をリードした。
上智大学理工学部化学科卒。広島県福山市出身。

紺野 俊介
紺野 俊介Konno Shunsuke
楽天グループ株式会社 執行役員
アド&マーケティングカンパニー ヴァイスプレジデント 広告事業事業長


1975年、千葉県生まれ。横浜市立大学卒業後、EDS Japan(現日本ヒューレット・パッカード)を経て、2003年に株式会社アイレップに入社。デジタルマーケティング事業を牽引し、2006年には大阪証券取引所ヘラクレス(現 大阪証券取引所JASDAQ)への上場に成功。同年取締役に就任。2009年からは10年間代表取締役社長を務め、アイレップを運用型広告でトップクラスの企業へと導く。書籍・コラム執筆や、セミナー講演も多数。2018年7月、楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)入社、同年8月より現職。