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データがもたらす広告の未来


スピーカー:
グーグル合同会社 マネジングディレクター
川合 純一氏

Meta日本法人 Facebook Japan 執行役員 営業本部長
鈴木 大海氏

モデレーター:
楽天グループ株式会社 執行役員
アド&マーケティングカンパニー ヴァイスプレジデント 広告事業事業長
紺野 俊介

 

 


 

紺野:データと広告というテーマで、グーグルの川合さん、Metaの鈴木さんとセッションを進めてまいります。

本題に入る前に「データ」について説明させていただきます。

インターネットのトラフィックデータ、IoTデータ、メディアのデータ、オフライン店舗のPOSデータ、ユーザーや企業間同士のエンゲージメントデータなど、さまざまなデータがあり、これらによりユーザーとサービス・モノをフィットさせていくことが、データがもたらす価値だと考えています。

プラットフォーマーである各社は、データをどう取り扱うかのポリシーやルール、ハード面のセキュリティはかなり厳格に取り組んでいます。データは当然ユーザーのものであり、それを前提として利用されています。広告を出すにあたっても、仕組みを整えた上でデータに向き合っています。

 

「データと広告」に関して業界が取り組んでいること

 

 

セキュリティとプライバシーが第一

紺野:グーグル、FacebookやInstagramを使ったことがない方はほとんどいらっしゃらないと思います。これらのサービスを提供するにあたって、どのような考え方でユーザー体験をお作りになられているのかについて伺います。

川合氏:インターネットの普及やテクノロジーの進化によってデータのビジネスへの活用が容易となり、活用する機会も増えました。特にスマートフォンの普及によって、デバイスが個人のものになったことで、個人の興味関心に関わるデータの活用機会も増加しています。

データを使ってプロダクトやサービスを磨いていくことが可能になったのは、広告プロダクトにおいても、広告主の方々や広告業のプレイヤーにとってもメリットとなり、広告の発展にも寄与するものだと思います。一方で、データの普及に伴ってユーザーの個人情報やプライバシーに対する懸念も大きくなっています。

グーグルはユーザーのプライバシーを守るために、高度なセキュリティ技術の確立と同時に、データそのものを厳格に取り扱い、ユーザー自身がプライバシーをコントロールできるサービスも提供しています。また、グーグルが個人情報を販売することもないですし、個人情報そのものを広告に利用しないというポリシーを持っています。

その中で、ウェブやアプリの行動履歴、検索・閲覧履歴をベースに、メードアドレスや個人の名前などは除いてグループ化し、それらをもとに広告出稿・運用に活用するサービスも提供しています。

 

川合氏

 

紺野:よりよいユーザー体験を作るためにそのようなことを行っているのですね。Metaの場合はいかがでしょうか。

鈴木氏:Facebook、Instagram、Messenger、WhatsAppというサービスを世界で36億人の方々に提供しています。また、2億人以上のビジネスや事業が当社のサービスを使用しています。広告も1つのコンテンツとして利用者にお届けしていると言えますが、最も大事にしているのは、利用者の興味関心と関連性の高いものをお届けすることです。

パーソナライズド広告とプライバシーは、トレードオフではなく両立できると考えています。利用者のデータをどのように使っているかの透明性の提供や説明は非常に大事だと捉えているので、利用者自身が広告表示の仕方の管理できる、どのようなトピックに興味があるのかを説明できる機能を搭載しています。

このように、利用者の行動データやシグナルを最大限活用させていただきつつ、プライバシーを重要視しながら、最適なコンテンツをお届けすることを心がけています。

 

鈴木氏

 

紺野:始めに宣言させていただいたように、ユーザーのものであるデータをきちんと管理し、その上でよりよい体験を提供していることは3社とも共通していますね。

 

 

ユーザーが安心できる広告体験が主流に

紺野:グーグルにおいて、データを広告にどのように使用されているかの事例を教えてください。

川合氏:個人情報やユーザーのデータがそのまま広告に使われているわけではないという事例をご紹介します。

様々なアプリをお持ちのNTTドコモさんは、アプリをどのような人がダウンロードして、何日以内にどれくらいの人がそのアプリを実際使うようになるかを、DMP(データマネジメントプラットフォーム)というデータベースを作って分析しています。その大元のデータからメールアドレス、電話番号などの個人情報を全部外して「こういう人たちかもしれない」というデータのみ、グーグルに共有いただいています。

それに対してグーグルはAIで「そのような人」を推測し、広告を配信しています。プライバシーや個人情報に対して関心が高まっている昨今、人々のニーズに合わせ、もちろん法令を遵守した形で、「そのような人」に向けた広告配信が主流になってきています。

紺野:Metaも同様に様々な形で広告を取り扱っておられますが、どのようにお考えでしょうか。

鈴木氏:利用者が安心できる広告体験の構築を最も大切にしています。透明性やコントローラビリティを提供することを第一に、その上でAIなどを活用したデータの取得方法や効果測定レポートを進化させていくことが大事だと考えています。

データの取得方法に関しては、ブラウザや端末に極力依存しないような形で、広告主からデータをMetaのプラットフォームに送っていただいています。その際、お客様とその広告主との間でどのようなやり取りがあったかを確実に送っていただくことが重要です。

それから、広告主とプラットフォームとで非常に安全安心な環境を構築し、そこで個人情報には最大限の配慮をしながら、個人がわからない状態にしてマーケティングに活用する「データクリーンルーム」と呼ばれるアプローチを、今まさに楽天さんとも一緒に構築しようとしています。

 

鈴木氏、川合氏、紺野

 

 

ユーザーが信頼できるツールの提供が不可欠

紺野:これまではデータと広告ビジネスの視点でお話していただきましたが、今度はユーザ観点でのお話を伺いたいと思います。今後、どういう風にユーザーの体験価値が上がっていくとお考えですか。

鈴木氏:安全安心というのが第一優先であることは変わりません。一方で、データ量は今後ますます増大していくので、それをどうやって取得していくかですね。そしてAIの活用はますます重要になります。

データ量の増大に関してのあるデータによりますと、メディアの消費時間が15年前に比べて1.4倍も増えているそうです。そのほとんどはデジタルです。その中で、これまでは購買したかどうかの情報だけだったのが、今は、例えば「メタバース内の店舗で商品を手に取ったけれど実際に購買はしなかった」というような行動の詳細もわかるようになりました。このようにますます増大していくデータに対して、AIの活用などにより本当に有用なデータを選定していくことが重要になってくると考えています。

 

鈴木氏

 

紺野:膨大なデータを持っているグーグルの川合さんはどう思われますか。

川合氏:これからは、ユーザーの承諾によって企業側に提供するデータも増えていくと思います。また、少し前までは居住地や年代、性別を推定した上での広告配信でしたが、今はリアルタイムのデータだけでなく、少し先の傾向も推測できるような興味関心などをベースにした広告配信もより自然なこととなっています。

このような時に大切になってくるのは、ユーザーがオンライン上での利便性を高めるために提供した自分の情報が他の人に漏れることがないという技術の整備と、それに裏打ちされた信頼感の醸成です。

例え話で言うと、僕が紺野さんに打ち明けた秘密を、全然知らない人から「川合さん、こうらしいじゃないですか」と言われるような不安があってはいけないのと同じではないでしょうか(笑)

昨今のテクノロジーの進化によって、グーグル含め各社が、様々なデータをどう厳格に取り扱うか、一人ひとりのユーザーのみなさんが信頼して使用できるサービスを提供するために日々一生懸命考えています。一方で、ユーザーの立場でこれから何をしなければいけないかというと、自分が使おうとしているサービスやその企業が本当に信頼できるかどうかを考えることです。

紺野:そのためのツールをご提供なさっているのですね。

川合氏:今までもGoogleではユーザー情報や履歴をコントロールできる機能がありましたが、今後は広告へのデータ使用も一元的に管理できるような機能を提供する予定です。*注釈

 

川合氏

 

紺野:ちゃんと秘密を守ってもらえるようになり、自分が秘密にしているのを宣言できるということですね。

 

 

セッションまとめ

紺野:最後に、楽天と広告のデータをどう捉えているかについてそれぞれお話をいただきたいと思います。

 

紺野

 

鈴木氏:我々は利用者が何に興味関心を持っているかが非常に重要だと考えています。そういったデータを、もちろん安全安心を第一に楽天さんとFacebook Japan共同で分析をさせていただき、興味関心のありそうな方にFacebookやInstagramで広告表示をする試みを、今まさに開始しようとしています。

紺野:その先にどのような未来が待っていると思われますか。

鈴木氏:広告の重要性は変わりません。利用者のみなさんにとって興味関心の高いものを、広告であったとしてもコンテンツと同じかそれ以上の届け方ができることを心がけていますし、そういった未来が今後も続いていくように努力していきたいと思います。

紺野:ありがとうございます。川合さん、楽天をどう捉え、未来についてどうお考えですか。

川合氏:楽天ポイントを中心とした様々なサービスを提供されている楽天さんのポテンシャルは非常に大きいと思います。楽天経済圏の中にいらっしゃるユーザーの方々は楽天さんを親しい友達だと思っているでしょうし、そう思ってもらえるように楽天さんがデータをベースにサービスを磨いていることに関しては、今後も長い間、親しい友達でいたいと考えているのではないでしょうか。

広告的なことで言うと、楽天さんが自社データとして保有する購買データや旅行のデータなどが、個人の方々に嫌な思いをさせないで繋がっていけば、さらに有益な情報を広告として提供できるプラットフォームになると思います。

紺野:ありがとうございます。世界を代表する2大プラットフォーマーとセッションを持たせていただくことで、改めてデータの量も価値も上がっていくということを認識することができました。

日本というマーケットは大きく、また広告もプラットフォームもグローバルですが、ビジネスはローカルです。データをユーザーのためにどう活かしていけるかをみなさんと協力して考え、ユーザーに体験として返せる世界を一緒に作っていきたいと思います。本日はありがとうございました。

注釈:マイ アド センターは2022年10月20日に提供開始

 

 

小林 史明氏
川合 純一氏Kawai Junichi
グーグル合同会社 マネジングディレクター


2012年にGoogle日本法人に入社。現在はマネジングディレクターとして、プロダクト企画と営業戦略を推進するインサイト&ソリューション スペシャリスト チームを統括しています。Googleに入社する前は、IMJグループ(現アクセンチュアグループ)の経営メンバー、マッキンゼー社のアソシエイトプリンシパル、リクルート社経営企画室のエグゼクティブマネージャーや、新規事業開発室の室長などを務めました。また、クラウド会計ソフトのfreee株式会社の取締役も兼任しています。一橋大学経済学部の学士を取得しています。

小林 史明氏
鈴木 大海氏Suzuki Omi
Meta日本法人 Facebook Japan 執行役員 営業本部長


AOL、オーバーチュア・ヤフーを経て、2009年よりアマゾンジャパンにてアソシエイトプログラム事業を統括。2011年よりCRITEOにてManaging Directorとして日本の責任者を務める。現在はMeta(Facebook Japan)のDirector 執行役員としてe-Commerce Platform企業、通信企業などの領域の営業部門の統括。

紺野 俊介
紺野 俊介Konno Shunsuke
楽天グループ株式会社 執行役員
アド&マーケティングカンパニー ヴァイスプレジデント 広告事業事業長


1975年、千葉県生まれ。横浜市立大学卒業後、EDS Japan(現日本ヒューレット・パッカード)を経て、2003年に株式会社アイレップに入社。デジタルマーケティング事業を牽引し、2006年には大阪証券取引所ヘラクレス(現 大阪証券取引所JASDAQ)への上場に成功。同年取締役に就任。2009年からは10年間代表取締役社長を務め、アイレップを運用型広告でトップクラスの企業へと導く。書籍・コラム執筆や、セミナー講演も多数。2018年7月、楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)入社、同年8月より現職。