花王株式会社
トライアル購買促進(リアル店舗)と「楽天市場」への購買導線構築による顧客定着促進<後編>
- 認知
- 興味関心
- 購買
- リピート・ファン化
花王株式会社
花王株式会社
コンシューマープロダクツ事業統括部門 DX戦略推進センター
ECビジネス推進部 部長
生井 秀一氏
花王株式会社
コンシューマープロダクツ事業統括部門 DX戦略推進センター
ECビジネス推進部 プラットフォーマービジネス室長
森竹 麻衣氏
花王株式会社
コンシューマープロダクツ事業統括部門 DX戦略推進センター
ECビジネス推進部 リーダー
高坂 麻紗子氏
花王株式会社
コンシューマープロダクツ事業統括部門 DX戦略推進センター
ECビジネス推進部 リーダー
正呂地 稔氏
花王株式会社
コンシューマープロダクツ事業統括部門 DX戦略推進センター
ECビジネス推進部 ECトレードマーケティング室
川原 美佐子氏
花王株式会社
コンシューマープロダクツ事業部門
ホームケア事業部
中本 光亮氏
楽天グループ株式会社
グローバルアドディビジョン DX企画部
ヴァイスジェネラルマネージャー
山口 高志
楽天グループ株式会社
グローバルアドディビジョン 広告営業統括部
ヴァイスシニアマネージャー
細川 大
楽天グループ株式会社
テクノロジーサービスディビジョン
グローバルデータ統括部マネージャー
水口 真
楽天グループ株式会社
グローバルアドディビジョン アドプロダクト統括部
アシスタントマネージャー
田山 直樹
※広告商品名「RMP - Omni Commerce」は取材時の名称です。2024年7月より「オムニコマース」へ変更となりました。
― 今回の施策を行った結果、何か社内に変化はありましたでしょうか?
中本氏:今回の「Rakuten Pasha」を活用した「RMP - Omni Commerce」のソリューションは、想定を大きく超えるリアル店舗でのトライアル購買に繋がるなど、従来のデジタル施策では目にしたことがない結果が得られました。今回の事例を花王の社内で共有したところ、住まいの除菌を提案している「クイックルJoan」というブランドでも、CF展開と連動させる形でプロモーションが実施できるのではないか、という話が出てきています。
田山:中本さん、有難うございます。現在「クイックルJoan」のブランド担当者様と、秋にプロモーションをカットオーバーする予定で、ブランドコンディションの情報共有やご要望を伺いつつ、楽天グループのアセットを活用して、どのようなマーケティングプロモーションがプランニングできるか、ディスカッションさせていただいております。CF展開も視野に入れておりますので、立体的なプランニングを花王様向けにカスタマイズしていく予定でおります。
細川:ブランドの横の繋がりが生まれたというわけですね。よく耳にするメーカー様の課題として、各部署で異なるKPIを追いかけていることから、部署の垣根を超えた施策を実施することが難しいとお聞きします。花王様ではどのようにして部署を横断する繋がりが作られているのでしょうか?
生井氏:花王も、まだまだ十分に部署間連携ができているわけではなく、そこを推進しているところです。今回の花王の各領域のスペシャリストがうまく繋がったのは、ブランド担当の中本と、プラットフォーマービジネス室で「楽天市場」を担当する正呂地が密に情報連携し、部署間連携を実現したこと。そしてやはり、楽天経済圏というユニークなビジネスモデルを構築している楽天グループと、その楽天グループが蓄積する膨大な購買動向分析データを捉えているという点が魅力的であったからこそ、花王もこのプロジェクトを成功させるべく連携できたのだと考えます。
例えば、テレビとデジタル、そしてリアル店舗がすべて繋がっているかというと、未だに繋がっていません。しかし楽天グループとプロジェクトを進めることによって、お客様が何をウォッチし、それをどのように感じ取り、どのようなパーセプションチェンジが起こって、実際の購買にまで至ったのかを、具体的に可視化することが少しずつできるようになってきました。これは、花王としてマーケティング活動をより発展的なものとして遂行する上で非常にポジティブなことです。
また今回の施策に限れば、今年1月のタイミングに花王の組織が大きく革新したことも、一つのポイントだと思います。本来は我々がテレビやリアル店舗と直接繋がれることがベストなのですが、ファーストパーティーデータとして自社でIDを収集するには大規模な準備プロセスが必要になります。とても今すぐファーストパーティーデータで全てのマーケティング活動を完結させるのは困難なのです。そこで今年の重要なテーマの一つとして、楽天グループのような「プラットフォーマーと共創する」ということを掲げました。その結果、今回のような成功事例が生まれたことは、私としても非常に喜ばしい成果です。
まずは楽天グループと一緒に協業できる領域から着実に始め、花王が実行したくても今は実現できないマーケティング領域があれば、楽天グループとディスカッションをしてその実現可能性を探っていく。今後もそのような形で協業させて頂ければと考えています。花王も未だ全てがうまく連携できているわけではなく、楽天グループを通して繋がっている、そうご理解して頂ければと思います。
川原氏:部署を横断という点に関しては、DXという横串の下、新たに「DXデザイン部」「ECビジネス推進部」(※)などを発足させるために奔走した、生井の尽力もあると思います。現場にいる私どもにとっても、非常に大きな後ろ盾になっています。
ブランド担当にとって、ECを始めとするプラットフォーマーの活用、デジタル広告施策やテレビをどのように網羅的に捉えて最適化することで、ブランド育成の一助にするかは永遠の課題です。花王でも担当者ごとに捉え方が異なり、オンラインをさらに活用しようという者もいれば、オフラインを重視している者もいます。そのような中、様々な意見や考えがありつつも、今回関係者間で前向きに進めていこうという合意形成を得た上でファーストトライを行えたという点は、花王にとって非常にポジティブですし、そのファーストトライとして、マーケティングプロモーションに結果が出たことも、非常に喜ばしいことであります。
依然として事例が少ないデジタル施策の取り組みにおいては、どの部署も参考にできる成功事例が現れるのを渇望しているため、今回の楽天グループとの施策を、花王のデジタル施策をさらに進化せるきっかけにしていきたいと考えています。
細川:非常に嬉しいお言葉、ありがとうございます。楽天経済圏を花王様に発展的にご活用いただけるよう、尽力して行きたいと思います。
※2021年1月1日付で、「DX戦略推進センター」に「DXデザイン部」「ECビジネス推進部」「カスタマーサクセス部」「MKプラットフォーム部」が新設された。
細川:非常に嬉しいお言葉、ありがとうございます。楽天経済圏を花王様に発展的にご活用いただけるよう、尽力して行きたいと思います。
生井氏:やはり、今回の「キュキュット あとラクミスト」の成果が非常に良い事例です。花王はブランドが多岐に渡る為、それに伴い様々な施策に手を広げがちではありますが、まずは、プロジェクトとして良いスタートが切れた「キュキュット」ブランドに拘って、継続的なデータマーケティングの視点で成功事例を作ることが大切だと考えています。たとえば、トライアル購買で「キュキュット」のお客様が獲得できたとした際、その後もずっと買い続けてくださっているのかどうか。つまり、一人あたりのLTVが高まっているのかということを、徹底的に追いかけていきたいのです。
リアル店舗によるトライアル購買を促進する入口のマーケティング戦術は、楽天グループとの協業により創ることができました。次のマーケティング戦術は、どのようにすればお客様が継続購入してくださるのかというリテンション型のビジネスモデルに仕立て上げることで、初めて一つのデータマーケティングの型が完成し、それをパッケージとして他のブランドにも展開していく。これが花王にとってはベストです。そのためには、「キュキュット」ブランドをきっかけに、まず一つのデータマーケティングのパッケージをしっかりと仕立て上げることに注力することが重要だと、私は考えています。
田山:「キュキュット」ブランドを、初回トライアル購買、リピート購買、ロイヤルカスタマーの創出へと繋げていくことが肝要だということですね。どのようにすれば花王様として最適なリテンション型のビジネスモデルを構築していけるのか、今後も花王様とプロジェクトを組ませていただき、その方法をプランナーとして探究させて頂きます。
コロナの影響で、消費者の生活様式は確実に変化しました。日本のEC化率は未だ低いものの、楽天グループのインターネット・ショッピングモールである「楽天市場」のGMSは増加傾向です。広義のOMOではなく、購買体験の場としてリアル店舗と「楽天市場」を融合させ、ユーザーに最適なUXをご提供するという試みは、今後、花王様と楽天グループの取り組みの一つの方向性として大きな意味を持つものではないかと考えております。
森竹氏:オンラインとオフライン両面で様々なサービスを持つ楽天経済圏には、大きな可能性を感じています。故に楽天グループと何か本質的に協業できることはないかと模索していたものの、マーケティング領域であったり売上拡大の領域であったり、十分な成功事例が顕在化してきたかでいうと、まだまだチャレンジしなければならない課題もありますし、道半ばだと思います。一例を挙げると、楽天経済圏の中でサンプリング施策を実施した際、最終的にその成果がどこに繋がったのかが見えづらかったのです。
今回の施策は、「キュキュット あとラクミスト」の認知から購買に至るまでのアクイジションファネルが一気通貫で可視化されており、かつ、リアル店舗でのトライアル購買促進の成果も出ていると花王として評価しております。今回の施策をきっかけに、さらに一歩踏み込んだディスカッションを進められるよう、楽天グループと花王でプロジェクト化してマーケティングが推進することを大いに期待しています。
正呂地氏:今回の「Rakuten Pasha」を活用した「RMP - Omni Commerce」の施策でしっかりとした成果を獲得したのですが、今回の施策は、花王としてはまだ第1形態です。田山さんのバックボーンが化粧品メーカーのブランドマーケターであったため、我々が持つ価値観と通じる点をお持ちだと感じることが多々あります。そのためプロジェクトを推進する際も、花王としてストレスを一切感じることなく、意思疎通が図れた上で細かな打ち合わせが着々と進みました。すでに新たなデータマーケティングにトライするディスカッションも進んでいますが、これからもさらに、細かくありながらもスピード感ある協業が実現していくと考えております。楽天グループとプロジェクト化して協業し、今後、リピート購買及びロイヤルカスタマーの創出を推進したり、花王の他ブランドへの派生など、拡大方法も検討したりするなど、楽天グループと花王でWinWinの関係が構築できることを目指しています。
田山:次の施策としては、オフラインからオンラインに繋げていくことを考えています。なぜなら、楽天グループにとって、非常に多くのユーザーに利用いただいている、インターネット・ショッピングモールである「楽天市場」をマーケティング戦略の中で更に効果的にご活用いただける余地があると考えるからです。今回の施策で得た膨大なデータをSeedとして、「Rakuten AIris」を使ってSeedの行動と関連性のあるユーザー層を導き出し、そのユーザー層を「楽天市場」に設置したキャンペーンページに誘導することで、「キュキュット」ブランドのアップセルとクロスセルを図りながら、顧客定着化を実現することができるのではないかと考えています。また、花王様の商品を購入している顧客ステータスの可視化を実現する、新しい顧客管理のフレームワークも導入していきたいと考えております。
― 日本のEC化率は業界全体で6.76%。中国の36%、アメリカの11%と比較すると未だ低く、その向上が課題となっていますが、花王様では今後ECチャネルについてどのような取り組みを進められる予定でしょうか?(※)
生井氏:確かにここ最近、EC化率を上げようという機運が高まっていますが、「デジタル社会において、どのようにすればお客様に価値提供が可能になるのか」というテーマに向き合うことが必要ではないかと私は解釈しています。市場が飽和状態となり、お客様のニーズも多様化した結果、パーソナライズ化した価値提供が必要になってきています。花王の技術力が非常に高いことは、実際に勤務していてよく分かりますので、私どものすべきことは、この技術力をいかにして「一人ひとりに合致させたソリューションとして提供していくのか」ということだと考えています。
マスに伝えるマーケティングやプロダクトの作り方は、ブランド担当の仕事です。私がデジタルを使って行いたいのは、マスマーケティングではなくスモールマスマーケティング。特定の消費者が抱えている課題やニーズへのアプローチです。そのためにまず必要になるのは、何に対してお客様が悩みを抱えているのか、いわゆるペインポイントを明確に把握することが必要になります。
たとえば以前、楽天グループとマーケティング施策を立案する過程で購買動向分析データを拝見した際、パンプスを購入した方の検索キーワードに「パンプス 外反母趾」というものがありました。これはつまり、外反母趾というペインポイントを解決するためのパンプス、という検索行動の表れです。このように、何に対する悩みを抱えている方が、どの商品を購買してくださっているのかということを、しっかり分析しなければならない。つまりビジネスモデルをソリューション型に変えていかないと、ECでは価値提案ができないということです。
一人ひとりの悩みを見つけて、マスでは伝えられないメッセージをECで伝え、「いかに自分事化してもらうか」という点がポイントだと思います。今回の施策は、その自分事化してもらうタッチポイントとして「楽天レシピ」と組ませて頂きましたが、「楽天トラベル」でも「Rakuten Fashion」でも同様だと思います。私どもが気づかなかったペインポイントに対するアプローチを、楽天経済圏の中でシームレスに繋げていくことで、最終的にEC化率も高まって行くと私は考えています。
― これからRakuten Marketing Platformにどのようなことを期待されていますか?
生井氏:ここ1、2年においては、楽天グループの購買動向分析データを基にイノベーター理論の検証を行いました。たとえば新商品へのリアクションが早い上位3%までをイノベーターとするなど、購買日を起点にある程度の人数を区切り、イノベーターにのみに打ったデジタル広告が、次のアーリーアダプターに拡がっていくのかどうか、そんなテストマーケティングを行いました。その結果、情報に敏感であったり、新商品が発売されるとすぐに購入してくださったりする方は、やはり周囲に拡散する力もあり、非常に効率的なマーケティングが実行できると分かったのです。
一方で花王の場合は、未だ広告の比率として高いのはテレビです。広く認知されていないブランドにとっては、テレビ広告は非常に有効なのです。以前、テレビの視聴データとリアル店舗での購買、ECでの購買、それぞれの購買効果の測定に対して実現可能性が見えてきた、という話を聞いたことがあります。すでに「Rakuten TV」や一部テレビショッピングなどから楽天IDに繋がっているとは思いますが、より広く、テレビとデジタル、そしてリアル店舗とECの全てを組み合わせてお客様に価値提供ができるようなソリューションをご提案して頂けるとありがたいです。
楽天IDを起点にマーケティングを俯瞰できるのが楽天グループの強みだと思いますので、テレビとデジタルの境界を消し去ってしまうようなマーケティングソリューションを、一緒に開発できると面白いのではないかと思っています。
※広告商品名「RMP - Omni Commerce」は取材時の名称です。2024年7月より「オムニコマース」へ変更となりました。詳しくは下記をご覧ください。
株式会社読売広告社
日能研本部
日清オイリオグループ株式会社