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OMO時代の最新実例!消費財メーカーのデータ活用術と、顧客体験を促進する店舗DX


スピーカー:
花王株式会社 DX戦略推進センター ECビジネス推進部 部長
生井 秀一氏

一般社団法人リテール AI 研究会 テクニカルアドバイザー
今村 修一郎氏

モデレーター:
楽天グループ株式会社 執行役員
アド&マーケティングカンパニー
紺野 俊介

 

 


登壇風景

 

紺野:今回は2人のゲストをお招きしてDX(注1)やOMO(注2)を紐解いていきます。まずは花王の生井さん、早速ですが花王のDXはどの程度進んでいるのでしょうか。また、DX推進のためにはトップのコミットメントが必要ですが、そのあたりはいかがでしょうか。

生井氏:花王では2021年1月に新社長が就任し中期経営計画のもとDX戦略推進センターが発足しました。社内の優秀な人材を中心としてDXを一気に進めています。

紺野:もう一人のゲストである今村さんは社団法人の立場から様々な企業のDXに向き合われています。前職ではP&Gにご在籍でしたが、企業の中で感じたDXと企業の外から見たDX推進についてどのような印象を持っていらっしゃいますか。

今村氏:社内にいるとDXがどの程度進み、どこで詰まっているか見えにくいことがあります。社外から見るとそれを明確に理解できるので、的確なアドバイスができペースメーカーのような役割で評価されることが多いです。コロナ禍によってリテール業界でもデジタル化が進んだ今、DX推進にチャレンジする人や会社、そして業界前提を支えたいと考えています。

紺野:2004年にDXという言葉が登場して2018年には経済産業省が改めてDX推進を提言し、ここ数年で各企業がDX推進課といった組織を作り始めました。生井さん、花王という会社組織の中でDX推進をどう旗揚げしたのですか。もしくはそうせざるを得なかったのでしょうか。

生井氏:DX推進はどこまで自分が責任を持ってやりますという腹決めができるかどうかだと思います。花王ではそのようなメンバーが揃ってやっていこうとなったのが2021年1月のタイミングでした。

(注1)Digital Transformationの略。デジタル技術を用い、生活やビジネスが変容していくこと
(注2)Online Merges with Offlineの略。オンラインとオフラインが融合した世界

 

 

花王「キュキュット」× 楽天のOMO施策

紺野:楽天はオンラインで日本最大級のインターネット・ショッピングモールである「楽天市場」を抱えていますが、オフライン(実店舗)にもまだまだ大きなマーケットが存在します。「楽天市場」での購買データを分析し購買行動を可視化することで、ユーザーに対しては購買という体験として還元し、企業とは様々な形で取り組みを実施する中で商品開発や販促に活かしていただいています。花王と楽天の取り組み事例をご紹介いただけたらと思います。

生井氏:花王「キュキュット」の事例をご紹介します。この商品は泡で出てくる食器用洗剤で、洗いにくい箇所も泡が染み込むことで汚れを落としやすくするという機能価値があります。それをお客様に分かりやすく伝えるために、まずレシピサイトである「楽天レシピ」のユーザー向けに広告を出させていただきました。 既存の手法なら、広告で認知を高めてそのままECでの購買という導線を引きます。しかし今回は「Rakuten Pasha(注3)」を活用して「楽天レシピ」ユーザー向け広告による認知を店頭での購買に繋げるOMOの施策を実施しました。結果として、ECを起点にした認知と購買が成功した事例となりました。

(注3)レシート画像を送付すると「楽天ポイント」を獲得できるサービス

 

楽天×花王キュキュットのOMO施策

 

マーケティングにおいて、これまでは商品を誰に売るかという商品軸で考えていましたが、これからの軸は人だと考えています。購買行動によって蓄積されたお客様のデータからどういうマーケティングをやっていくかを考えていくやり方です。「キュキュット」のアクティブユーザーをいかに定義づけるかが難しかったのですが、データの中央値を見ていくうちに「120日間の間で買ってくれた人」という仮説が出てきました。離脱したお客様にいくらメッセージを出しても嫌がられるだけですので、購買データを物差しにして定義づけできたのはとてもありがたいことでした。

紺野:もう一つの事例としてモデル開発についてお聞かせください。

生井氏:楽天でのテストマーケーティングで需要を予測したモデル開発「N=1(エヌイチ)起点のものづくり」を実施しました。具体的には「へそごまパック」という商品で、へそのごまを取るだけのパックになかなか市場価値を見出すことができなかったのですが、いざ発売してみると非常に売れました。こういったアジャイル開発(注4)ができるプラットフォームは楽天しかないと感じています。

(注4)短い開発期間単位を採用することで、リスクを最小化しようとする開発手法の一つ

 

楽天×花王 CPM分析

 

DXと一言で言っても様々な領域があります。大きく分けると一つ目はリテール領域の物販です。2つ目はデータを活用し「へそごまパック」のように“あなただけのソリューション”に変換した価値転換にするDX、三つ目は「キュキュット」のようにECを起点にした認知でオフラインでの購買に繋げるOMO型のDXです。この3つの輪が楽天さんとの大きな取り組みテーマだと認識しています。

紺野:このような先進的な事例を作ることでユーザーに対して価値を提供できると同時に、新たな取り組みも進めていきたいと考えています。

 

3つの領域でのお取組みを目指して

 

 

購買データを軸にしたマーケティング

紺野:今村さんは社団法人としてDXにどう向き合われているのでしょうか。

今村氏:小売業や中小企業、メーカーにまずは購買データを軸にする話をしています。マーケティングもDXも、もしゴールを購買に設定するならそのデータを押さえないと全部が崩れてしまうからです。

前職でデータサイエンティストとして購買データや広告データを分析する仕事を5、6年やっていましたが、そこで消費者の興味関心と購買データがあまり一致しないことに気づきました。オンライン/オフライン共に消費者の購買行動では、必ずしも自分が欲しい物(理想)を買うわけではなく、買えるもの(現実)を選択して買います。しかし、ソーシャルメディアを始めとするインターネットの世界では理想寄りになっていて、一方、購買の方はどんどん現実になっていくというギャップが大きくなっていることを感じました。

 

購買データがなぜ重要か?

 

しかし、オンライン/オフライン両方の購買データという観点で言うと、日本ではオフライン購買がまだまだ多いのですが、データのアクセシビリティや保有はオンラインにしか蓄積されておらず、わからないことが多いのが現状です。ですので、オンライン/オフライン両方の購買データの保有とその分析の重要性を改めて認識し、購買データを軸にしてマーケティングを進めていく上で肝となる商品マスタをオープンソース化するプロジェクトを始めました。現在、約170万SKU(商品の最小単位)の情報のオープン化に成功していて、これを旗印に企業の枠を超えたDX化を進めていけるという自信を実感しています。

紺野:DXの未来像についてどのようにお考えでしょうか。

今村氏:現在、スマホレジやレジカートが急速に普及しています。これは、アマゾンが20年かけて日本で2兆円程の規模になった10倍くらいのスピードです。リアルタイムでの購買データが同様の規模で推進されたら、これが大きなゲームチェンジャーになるのではないかと考えています。先ほどの商品マスタのオープン化もそうですが、一社で進めると難しいことでも他社と協業することで可能性が広がります。

その場合、消費者にとっての正しい価値や商品を届けるという価値観が共有できるかどうかが重要になってきます。これからもより多くの企業にDX、特にオフライン購買データやID-POSなどにチャレンジしてもらいたいので、そういう企業をどんどん応援していきたいです。業界全体を盛り上げ、新たなチャレンジャーを生み出していきたいと考えています。

 

登壇風景

 

 

セッションまとめ

紺野:生井さん、コロナ禍など環境の変化で御社の取り組みはどう変わっていくのでしょうか。

生井氏:コロナ禍で時代が2、3年早まったとも言われていますが、情報の入手もデジタルが当たり前になってきました。広告も例外ではなく、ワンメッセージしか伝えられないテレビCMとパーソナライズできるデジタル広告では伝える価値も違ってきます。こういった変化への対応にこれから取り組まなければならないと考えています。

紺野:今村さん、DX推進によってどのような体験価値を提供できるとお考えでしょうか。

今村氏:各企業が消費者の大切な情報を適切に扱いながら先に進み、その価値を消費者に問うというサイクルをどれだけ早く回せるかだと思っています。また、個社での取り組みではなくいくつかの集団で施策を実施することによって、進化のスピードがより加速し、多くの成功が生まれるのではないでしょうか。

 

登壇風景

 

紺野:楽天としては事例をセミナーなどで共有しながらプラットフォーマーとしての立場を明確に打ち出し、DXを進めていきたいと考えています。また今後もオンライン/オフラインさまざまな形で取り組みを増やしたいと思っていますので、ぜひ今後ともよろしくお願いします。

 

紺野 俊介
紺野 俊介Konno Shunsuke
楽天グループ株式会社 執行役員 アド&マーケティングカンパニー


1975年、千葉県生まれ。横浜市立大学卒業後、EDS Japan(現日本ヒューレット・パッカード)を経て、2003年に株式会社アイレップに入社。デジタルマーケティング事業を牽引し、2006年には大阪証券取引所ヘラクレス(現 大阪証券取引所JASDAQ)への上場に成功。同年取締役に就任。2009年からは10年間代表取締役社長を務め、アイレップを運用型広告でトップクラスの企業へと導く。書籍・コラム執筆や、セミナー講演も多数。2018年7月、楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)入社、同年8月より現職。