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購買データに基づかない全てのマーケティングは無駄である

楽天株式会社 副社長執行役員CRO
メディア&スポーツカンパニー プレジデント
有馬 誠

私が楽天に感じた可能性

Japan IT Week関西「購買データに基づかない全てのマーケティングは無駄である」有馬誠

 購買データを利用したデジタルマーケティングが、ようやく最近になって実現してきました。

 オンラインで完結するデジタル広告のビジネスがスタートした当初、すべてのマーケティングが数値でわかるということは非常に画期的でした。その後、CPC(Cost Per Click)広告などを中心に発展し、クリック数やコンバージョンなどが測定されています。しかし、はたしてこのデジタルマーケティングがどれだけ購買につながっているでしょうか。私はデジタル広告に関わり続けて20年以上になりますが、忸怩たる思いを抱えていました。

 購買データを使ったマーケティングを大きくしていきたいと三木谷から打診があり、私が楽天に参画したのは一昨年のことです。当時、すでに楽天には出店店舗を対象とした広告ビジネスで600億円以上の売上がありました。一方で、楽天に出店していない広告主からの広告は、ほとんどありませんでした。これを購買データを使って大きくしたいと。楽天には、「楽天市場」を通じたオンライン上の購買データはもちろんのこと、取扱高では日本一の「楽天カード」や「楽天Edy」、「楽天ポイントカード」といったオフラインでも使えるサービスが多くあります。これらの購買データとインベントリ、そして1億を超えるIDを使えばクロスデバイスもでき、広告事業としてより大きなビジネスができる―、私はそう確信したのです。

メーカーにおけるデジタル広告の課題とは

 メーカー広告の場合、マス広告、店頭販促、デジタル広告それぞれに課題があります。マス広告については、実際にその広告によって売れたのかがなかなかわかりにくい。キャンペーン型で一時的に大きな効果は期待できるものの、運用型になっていなければ、その結果からフィードバックをかけ、クリエイティブを変えていくのも難しいでしょう。つまりPDCAを回しにくい。店頭販促の場合も、効果をすぐに確認しづらく、施策改善にも時間がかかります。

 それに対して、PDCAを回しやすいのがデジタル広告です。従来では、広告主が広告配信プラットフォームに発注をかけて、そこから各媒体に広告が出て、自社サイトに誘導していました。

 しかし、自社サイトへの誘導がメインである場合、データの連携が不十分なため実際に購買につながったかがわからずデジタル広告への投資効果は不透明です。加えて、人ではなくロボットがクリックをしている「アドフラウド」やそれによる「ビューアビリティ」、望ましくないサイトに広告が出る「ブランドセーフティ」といった問題もあります。それにも関わらず、その集客効果はCPCという指標だけで間接的に測定されているのです。そのため、広告媒体からは、じっくり読んでもらえる良い内容のサイトを作ったとしても、クリック数が少ないという理由で予算が落ちない、記事を書こうにも取材の費用すら出ないなどといった声をよく耳にします。そしてユーザーの多くは、関心のない広告の出現や、同じ広告が何度も出ることに強い煩わしさを感じています。

購買データに基づく楽天のアプローチ

 一方、楽天の購買データを起点とするマーケティングは、CPP(Cost Per Purchase)を重視します。つまり、購買への貢献度が高いところに寄せ、低いところは抑制していくのです。

 自動車パーツ企業様の例を紹介しましょう。購買データに基づくターゲティング結果ではクリック数が40%に減りました。ところが、商品ページに到達した数は1.6倍です。実際の購買数は4倍になりました。

 

自動車パーツ企業様の事例-総クリック数は下がったが、購買数は4倍になった

 

 CPCとCPPを比べた実証結果もあります。下の図の右下では、クリックが90%起こり、予算が76%費やされています。しかし、コンバージョンは約4割です。一方、右上。クリックは6%しかないものの、コンバージョンは20%、つまり全体の5分の1を取れています。さらに、左上では、クリックはわずか1.4%、コストも5.8%にも関わらず、コンバージョンは22%です。どちらがコスト効率が良いかは明らかでしょう。もちろん、クリック数が多く、購買にもつながりやすければ広告配信は有効です。

 

PoCの結果:CPC vs CPP

 

 クリック数は少なくてもユーザーの滞在時間の長い、料理番組のサイトにコンタクトレンズの広告を出したら購入率が高かった、という意外なデータもあります。関係のない商品同士なのですが、滞在時間が長いため、広告もきちんと見られて購買につながったという実証例です。

 このようなCPPでのメリットは広告主に限ったものではありません。媒体社にとってはよく読まれる良いサイトにより多くの予算が出やすくなり、ユーザーにとっても関心のない広告が出にくくなります。デジタル広告は、この三方にメリットがなければ成り立ちません。「三方良し」が、購買データマーケティングの基準なのです。

 購買データには、POSデータなどを通じたオフラインデータも取り入れていく予定で、「RDN (Rakuten Data Network)構想」として、一番優れたデータベースを作ろうと社外も含めて広く呼びかけようとしています。ぜひ実現させたいと思います。

 

RDN (Rakuten Data Network)構想

 

楽天エコシステム

 改めて楽天について紹介します。楽天エコシステム(経済圏)では、70以上の多様なサービスを提供しています。IDは1億以上あり、「楽天カード」などFinTechのサービスも展開しています。さらに、2019年10月には携帯キャリア事業に参入予定で、楽天市場の出店店舗の配送サービスを楽天が提供する「ワンデリバリー」化への準備も進めているところです。

 

1憶以上の楽天ID「楽天エコシステム」

 

 また、「楽天市場」は今やメディアとしても大きな存在感を示しており、企業の自社サイトと比較すると、接触者数は10倍、接触回数は3.5倍、サイトの平均滞在時間は8.5倍という調査結果もあります。

 

メディアとしての楽天市場滞在時間と購買行動

 

メディアとしての楽天市場の活用「RMP - Brand Gateway」

 「RMP - Brand Gateway」は、今や楽天エコシステムが巨大なチャネルへと変化し、購入だけでなく、商品の情報収集・比較検討にも利用されていること、そして滞在時間が長いサイトに出る広告ほど購買につながりやすいという分析結果もあることに基づいた商品です。

 

「RMP - Brand Gateway」購買意欲の高いユーザーが集まるショッピングメディアで製品情報を効果的に訴求

 

 「楽天市場」の中に各メーカーがブランドサイトのようなページを開設し、そこに集まったユーザーを製品販売ページに誘導して購買につなげます。また自社製品以外にどんなものを買っている層であるかもわかり、次のマーケティングへのヒントが得られるというメリットもあり、すでに多くの企業様にご利用いただいています。

 耐久消費財のメーカー以外の導入例もあります。例えば「自動車」です。とはいえ、「楽天市場」で自動車の販売はできないので、カタログ請求を促しています。今まで把握できていなかったエンドユーザーの購買特性などを分析でき、しかもリアルタイムで情報更新されるという点で大変喜ばれています。自動車メーカー以外の販売店によるユーザーフォローや、新規獲得にもつながっているようです。

 これこそがCRM (Customer Relationship Management)です。単に広告を出して新規ユーザーを獲得し、リターゲティングしていくだけではなく、このCRMでユーザーと長期的な関係を築いていくことが、購買データマーケティングの重要なポイントといえるのではないでしょうか。「RMP - Brand Gateway」なら自社サイトで運営するよりコストがかからず、集客率も望めます。

“似た人“を探す精度が高い「RMP - Customer Expansion」

 最後に拡張型の広告配信ソリューション「RMP - Customer Expansion」を紹介しましょう。

 例えば、あるビールを買った100人を約920の項目で分析します。これがシード(種)になります。このシードと似た特性を持つユーザーを、楽天が昨年開発し大変好評を得ている「Rakuten AIris」というAIを活用した技術で探し出します。こういったルックアライクは他社でも行っていますが、楽天にはなんといっても購買データを含む1億以上のID情報があるため、「Rakuten AIris」による拡張の精度が非常に高いのです。対象の100人に70%近しい人を見つけようとしたら、その数は100万人ほどにのぼる可能性があるのです。

「RMP - Customer Expansion」楽天のビッグデータを分析・活用するAIエージェント(Rakuten AIris)「RMP - Customer Expansion」AIrisを活用した拡張配信、WEB広告だけではなくメール・DMなども配信可能

 

 またこれは、検索連動型広告やメール型広告など、いろいろなチャネルと組み合わせられることも特徴のひとつです。ぜひ新規ユーザー開拓のマーケティングアクティビティなどにご活用ください。

 購買データはデジタルマーケティングを変える。その可能性を私たちと一緒に実感していきましょう。

有馬 誠
有馬 誠Arima Makoto
楽天株式会社 副社長執行役員CRO メディア&スポーツカンパニー プレジデント


1956年、大阪市生まれ。 京都大学卒業後、倉敷紡績株式会社(クラボウ)入社。株式会社リクルート、ヤフー株式会社 常務取締役、グーグル株式会社 代表取締役を歴任。2017年7月、楽天株式会社 副社長執行役員兼CROに就任。同年、楽天株式会社と株式会社電通の互いの資産・知見を融合したジョイントベンチャーの楽天データマーケティング株式会社 代表取締役社長に就任。2018年7月 メディア&スポーツカンパニープレジデント就任。