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デジタルマーケティングが切り拓く新しいオフライン購買

楽天株式会社 執行役員 グローバルアドディビジョン アドプランニング統括部 ディレクター
紺野 俊介

インターネット広告の変化

 なぜ今、楽天が広告ビジネスに力を入れているかということをお伝えいたします。

 いわゆる「広告=広く告げる」と呼ばれる広告とは異なり、インターネット上の広告は大きなトレンドとしてみると、Cookieに基づいた「狭告=狭く告げる」という世界観で進化してきました。しかし昨今、ヨーロッパのGDPR(EU一般データ保護規則)を含め、そのCookieを扱うことが非常に難しくなってきています。

 そのような状況を踏まえ、ID を基にした「ユーザーに利用規約を明確に明示して許諾を得た広告」という世界観が、少しずつ浸透してきています。

 楽天は今、その世界観の中でオンラインとオフライン、広告と購買データを様々な形で結びつけていく取り組みを始めています。その内のひとつ、「Rakuten Pasha」というサービスを例に、私たちが考えるオフライン側の広告ビジネスについてお伝えいたします。

 

オンラインであたりまえの計測が、オフラインでできるように

 今までのデータマーケティングの手法において、広告主様、事業者様が保持されているデータだけでは、どうしてもデータの活用に限界がありました。媒体プラットフォームのGoogleやFacebookと連携しても、本当の意味で自分たちの1to1マーケティングが可能になるわけではありませんでした。

デジタルマーケティングが切り拓く新しいオフライン購買

 「CPA(アクションに対する課金)」は、実際の購買や資料請求などから比較的データが取得できていました。しかしAB テストの中心となる「CPC(クリックに対する課金)」に関しては、配信されるべきではないデータや、人ではなくロボットによるクリックなど不明確なデータが存在していたのです。

 前述した「狭告」においては、一人ひとりに対するパーソナライズが密接な形で進むと考えられています。そのことから、今後、オフラインの領域ではIDが鍵になっていくと思われます。

 オンライン上では、どの広告ビジネスにおいても「何かを買ってもらう」「何かを請求してもらう」というタイミングで、その時々に入力していただいたユーザーの情報、もしくはIDに基づき様々なデータを構築しています。

 他方、オフラインでは、POSに代表される「データをある程度精緻化するという取り組み」は行われていたものの、入力者の主観に基づいて入力された「若干不確かな(場合によっては入力ミスもある)情報」も蓄積されています。しかし他にデータがないため、その「若干不確かなデータ」を分析しPDCAを回さざるを得なかったのです。

 その問題を解決すべく、オフラインでもオンライン同様の分析を可能にするサービスが最近トレンドになりつつあります。

 その一つが、私たちが今年リリースした「Rakuten Pasha」です。サービスの内容は、毎日更新されるクーポンを獲得し、オフラインで該当商品を購入してからレシートを撮影して送信すると、「楽天スーパーポイント」を獲得できるというものです。「楽天スーパーポイント」を獲得するには「楽天ID」が必要になります。つまり「Rakuten Pasha」は、楽天のサービスにおける様々なユーザー情報が含まれた1億を超える「楽天ID」と、オフラインでのユーザーの購買活動を連携させることができるのです。

 

オフライン購買の計測がもたらす世界とは?

 私たち楽天グループはフィンテック事業として、「楽天カード」・「楽天Edy」・「楽天ペイ」という決済サービスを展開しています。2020年春にはJR東日本とのキャッシュレス化の推進に向けて連携をし、「楽天ペイ」アプリ内で、JR東日本が提供する交通系ICカード「Suica」の発行やチャージなどができるようになる予定です。例えばユーザーがクレジットカードを持っていたとしても購入先はオフラインの店舗であるため、そのデータをそのまま自社のマーケティングに使用することは困難です。「決済データを集めることは購買を司ること」と言われますが、実際のところ決済データのみでは、日々のマーケティングのPDCAを回していくのは難しいのが実情です。

 しかし「Rakuten Pasha」というサービスを通して、ユーザーの許諾を得てお預かりする情報であれば、ID と結びつけることで様々なデータとして活用することが可能です。ユーザーのオフライン購買とオンライン購買を繋げていることが一つの強みだと考えています。

 オフライン購買が計測できるとどのようなことが可能になるのかについて、具体例をご紹介します。

 

購買計測がもたらす情報例・ある商品の店舗別単価

 

 こちらは100円より少し付加価値が付いている飲料です。エリアによって価格に88~151円とばらつきがありますが、 実際には、在庫に連動して価格を変更するドラッグストアや、それに近い取り組みを始めているコンビニエンスストアもあるため、ユーザーが購入するタイミングによっても商品価格が異なっていると推測されます。

 しかし「Rakuten Pasha」を始めとする楽天の複合的なサービスにおいては、その流通チャネルや場所だけでなく、購入のタイミングという時間軸の情報も分析できるため、その日の天候や気温をはじめ様々なデータを取得できます。そしてそのデータを利用すればダイナミックなプライシングが可能になり、将来的には商品在庫などに反映させることも考えられると思います。

 

購買前後についてもユーザーの理解が可能に

 今年、私たちの大きなもう一つの取り組みは、「楽天市場」というオンラインのタッチポイントだけではなく、オフラインのロケーションデータをお預かりする「Rakuten Pasha」を通してIDを統合し、様々な形でクライアントにサービスの提供を展開し始めていることです。

 このサービスにより、購買はもとより、購買前後についてもユーザーの理解ができるようになり、それぞれのメーカーは楽天のIDをもとに自分たちのファン層を獲得することができます。また、「まだ自分たちのファンにはなっていないユーザー」に対しても、どのようなインセンティブを提供すれば、新たな顧客との関係を構築できるかということも検討できるようになります。

 今までは媒体別・手法別だけで語られてきたところを、これからは一人ひとりに対して「どのような広告」、「どの程度のコストをかけていくのか」というマーケティングも可能になるのではないかと考えています。

 20年前、インターネットに「検索」という新たな領域が生まれました。そしてCookieを通してユーザーが検索窓に入れたキーワードが紐づけられ、広告を接触させるデジタルマーケティングの、いわゆる「広告=広く告げる」という世界がスタートしました。

 そして直近この10年、ユーザーが自分で情報をインターネットに発信するという新たなトレンドが生まれ、「いいね」や「リツイート」に代表されるユーザー発の情報が、関連する人たちに「追認」、「承認」、「褒める」といった形で結びつくようになりました。その結果、一部不確かなユーザー(場合によってはアノニマスなIDも含む)による「いいね」(明確な意思を持って「いいね」していない時も含む)と、SNSに代表されるような行動と紐付けたソーシャルマーケティングが、この数年間展開されてきたのです。

 

オンライン購買情報はID基盤と繋がることで価値を生み出す

 楽天を含むインターネット上の様々な購買アクションを行う会社の購買情報やIDには、購入された商品を自宅にお届けするため、ユーザーの住所情報や、正確な年齢なども含まれています。そのような正確な情報に基づいたマーケティングが、昨今グローバルなトレンドでもあり、楽天が様々な形で皆さまのプロモーションのお手伝いをしていくことに繋がっていくと考えています。

 例をいくつかご紹介いたします。
フルファネルにおいて、テレビなどで認知をしたユーザーが最終的に購買を含めたアクションをするところまでは、一部データが蓄積できるようになってきています。しかし本当の意味で、「接触したユーザーが最初に何をした」ということを追うのは、今まで実現不可能でした。

 ただこれからは様々なメディアがデジタル化していくため、ID と結び付けた形でユーザーに体験を提供できるようになると計測が可能になります。アメリカなどではすでに始まっていますが、恐らくそんなに遠くないタイミングでテレビ CMも「このユーザーにはこの CM を当てよう」というようにダイナミックになると予想されるため、私たちも準備を始めております。

 次に、購買計測を活かした次世代型サンプリングです。
こちらも「Rakuten Pasha」を介することでターゲットを明確に設定できるようになるため、自分たちが調べたいユーザーに対してサンプリングを行うことができます。そしてその反応をデジタル上で様々な施策によって、場合によってはリアルタイムに測ることも可能になってきます。

 「Rakuten Pasha」は今年2月に始まりました。規模をこれから大きくしていくという段階ではありますが、ユーザーに「トクダネ」と呼ばれるクーポンを取得して該当商品を購入していただくことで、今後10万個以上のサンプリングや販促を行うことが可能になると考えています。

 例えばコンビニエンスストアやスーパーなどでの販促施策に必要な、具体的な金額、具体的な場所など、これまで難しかった店頭販促のデータも、デジタルとオフラインの統合によって分析できるようになってきています。

 さらに、本当の意味でユーザーを結びつけることが困難であることにより真の顧客理解が難しかったクロスチャネルにおいても、シングルソースであるIDであれば明確にこれを獲得することが可能になります。

 これも楽天がEコマースにおけるデータを蓄積し、かつそのデータにID をベースにしてユーザーを結びつけることができるからです。

 

変化例・IDによるコマース全体の理解"

 

 この図は、「Rakuten Pasha」で獲得したクーポンを利用してオフラインで商品を購入したユーザーは、オンラインでも類似した商品を購入してくれるということを示しています。

 日本のオンラインの市場規模は10パーセントに達していません(※1)。つまり90パーセント以上がオフラインのデータで占められています。

 私たちはオンラインとオフライン双方のデータを蓄積していますので、明確にユーザーをマッピングすることができます。その上で、「すでにファンであるユーザー」、「競合側の商品をオンラインで購入しているユーザー」など、オンライン上でオフラインにおけるユーザーの行動を可視化することが可能になりつつあります。

 

※1:経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 「平成29年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」,2018年,p.6

 

蓄積したオフラインデータは拡張して利用も可能"

 

 話は少し変わりますが、この領域に関してはAI という存在がつきものです。楽天ではAIの分析をするメンバーが200~300名ほど在籍しています。

 様々な実在ユーザーのクラスターが分析されていますので、IDをベースに、皆様からお預かりするデータ、例えば「『Rakuten Pasha』のサービスを提供して集めたデータ」や「実際にリサーチを行ってユーザー特性を集めたデータ」というようなものを使い、ユーザーの拡張やターゲットに対する広告販促活動を行っていくことができます。

 これはオンラインに限った話ではなく、タッチポイントがオフラインの場合は、ダイレクトメールとして商品を買い取る際の「同梱」や「同封」という形でコミュニケーションが可能です。

 今後のオフラインデータの活用としては、「Rakuten Pasha」の認知を高めた上で、「トクダネ」もしくは楽天のエコシステムの中でウェブサイト上のランディングページを作っていただくことなどを構想しています。もちろんそれだけではすべてのユーザーを網羅できないため、併せてコンビニエンスストアやドラッグストア、スーパーなどに関わる様々な流通の方たちとも商品の連携を始めています。

 また決済のタイミングにおいても、当社が展開している決済システムを通しユーザーの分析を可能にできるよう準備しており、オンラインの購買データだけでなく決済の情報も蓄積している楽天グループだから可能になる、オフラインデータの活用構想を準備しています。

 

オンラインとオフラインが一つの世界に

 来年から5Gという新たな環境でユーザーのコミュニケーションがよりリッチになります。例えばオンライン上での商品への接触に関しても、よりリッチな動画になっていくのかもしれません。

 情報は相互にやり取りされますので、ユーザーは皆様が「適切なコミュニケーションをした商品」に対して認知を高め、「適切なコミュニケーションがなされている商品」を購入していく、そういう世界観が目の前に来ているといえます。

 私たちは「Rakuten Pasha」をはじめ、オンラインとオフラインとの統合を進めています。楽天をマーケティング手段として考えてくださる方はまだ少ないかもしれませんが、「Rakuten Marketing Platform」という名のもとに、データだけではなく様々な形で広告主の方々にサービスを提供しておりますので、興味を持っていただければと思います。

 

 

紺野 俊介
紺野 俊介Konno Shunsuke
楽天株式会社 執行役員
グローバルアドディビジョン アドプランニング統括部 ディレクター


1975年、千葉県生まれ。横浜市立大学卒業後、EDS Japan(現日本ヒューレット・パッカード)を経て、2003年に株式会社アイレップに入社。デジタルマーケティング事業を牽引し、2006年には大阪証券取引所ヘラクレス(現 大阪証券取引所JASDAQ)への上場に成功。同年取締役に就任。2009年からは10年間代表取締役社長を務め、アイレップを運用型広告でトップクラスの企業へと導く。書籍・コラム執筆や、セミナー講演も多数。2018年7月、楽天株式会社入社、同年8月より現職。