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ECプラットフォームを活用した楽天のマーケティングソリューション


楽天グループ株式会社 執行役員
紺野 俊介

 

 


 インターネット広告費は昨年2.1兆円に達し、日本の広告費においてテレビ広告を越えるシェアを占めるようになりました。当社が運営する「楽天市場」などのECプラットフォーム広告費もインターネット広告費に含まれ、その総額は1046億円になります。私たち独自の試算では、楽天がその60%を占めています。

 当社の「楽天市場」を中心とするECプラットフォームは、多くのメーカー様の出稿意欲が非常に高まっており、2020年第2四半期におけるメーカー様からの広告出稿金額は前年同期比で20%弱伸びています。この厳しい状況下でも、引き続きダブルデジットの成長を続けられたというのは、当社ゆえの特長であり、今後もECプラットフォームにおける広告マーケットでさらなる成長が可能であると認識しています。

 

 

バーティカルなECプラットフォーム内検索で販促ができる「RMP - Sales Expansion」

 

バーティカルなECプラットフォーム内検索で販促ができる「RMP - Sales Expansion」

 

 私たちは今年新たに「楽天市場」の商品検索結果画面に運用型広告を配信する「RMP - Sales Expansion」というメーカー様向け広告プロダクトの提供を開始ました。従来は、「楽天市場」の出店店舗様にのみ「楽天市場」の検索結果広告を開放させていただいていました。しかし、現在多くの広告主様がオンラインで顧客との接点を増やす取り組みを進めるなど、ECプラットフォームというチャネルがその重要度を増しています。そこで、より多くの企業様に「楽天市場」を広告メディアとして活用していただき、その販促をお手伝いできるのではないかと考え提供を開始しました。

 一般的な検索エンジンにおける検索ではなく、バーティカルなECプラットフォームにおける検索というマーケットは、海外のECプラットフォームでも取り入れられており、今後メーカー様にとって重要な販促手段になっていくと予想されます。「RMP - Sales Expansion」は、「楽天市場」における検索であるため、ROAS(Return On Advertising Spend)やCPA(Cost Per Acquisition)でも明確な指標が得られます。

 

 

新たな顧客を顕在化させる、多様なメディアの活用

 当社は楽天IDをベースに、ユーザーから許諾を得たうえで、ファーストパーティとしてデータを蓄積しています。そのデータと自社のデータを連携させたいと、広告主様からご要望いただくこともあるのですが、昨今、GDPR(一般データ保護規則)をはじめとする個人情報保護関連の法規制が進み、データの連携は非常に難しいのというのが実情です。しかし当社には、ファーストパーティとしてドメインを有する「楽天市場」や「楽天Infoseek」、「楽天レシピ」といったメディアがありますので、そこにご出店いただいたり、ランディングページを保有していただいたりすれば、ユーザーとのエンゲージメントを作り、データを結びつけることが可能です。

 自社内でデータを蓄積していきたいと考える企業様もありますが、サードパーティCookieとの連携が難しくなり、全体のユーザーが顕在層、つまり自社のファンのみに対するアプローチになってしまいます。当社には、「楽天不動産」や「楽天占い」、クチコミ就職情報サイト「楽天みん就」など、「楽天市場」以外にも多様なメディアがあるため、幅広い層のユーザーとのタッチポイントがあり、またページビューも膨大です。企業様のオウンドメディアと比較してユーザーとの接触の可能性がより高まると考えられるため、当社が蓄積する多種多様で膨大なデータを企業様のマーケティングに活用していただくことを見定めながら、広告ビジネスを展開しています。

 一般的に滞在時間と購買活動は、相関関係があるといわれています。その観点から考えると、検索エンジンやソーシャルメディアではない形で、「楽天市場」をはじめとする当社の様々なサービスをユーザーとのタッチポイントとして駆使していくことの重要度が、今後さらに増していくと考えております。すでに当社のメディアを活用いただいている企業様は、自社のみでは見えなかったペルソナを作り、そのデータに基づいてマーケティングをPDCAで回すことが可能になっています。

 

 

ユーザーに合わせたアプローチを可能にする「Rakuten AIris」

 

ユーザーに合わせたアプローチを可能にする「Rakuten AIris」

 

 当社はファーストパーティ楽天として、膨大なデータを蓄積しています。しかしデータは、蓄積しているだけでは意味がありません。顕在化していないユーザーにセグメントをかけたり、認知を取ってエンゲージメントを高め、ファンになっていただいたりするために拡張する必要があります。その一般的な広告でいう拡張を、当社では「Rakuten AIris」というAIエージェントで行っています。また当社には、前述した通り数多くのインベントリがあるため、ユーザーとのタッチポイントも、Web面やアプリ面でのバナー広告だけではなく、ダイレクトメールによる広告など、様々なアプローチが可能です。

 「Rakuten AIris」の特徴は、オンラインの購買だけでなく、オフラインの購買をはじめ当社の多種多様なユーザーとのタッチポイントを通じて様々なデータを蓄積していることです。またデモグラフィックデータも、「楽天市場」などの商品発送に使用する情報など、非常に正確なデータとなっています。

 これらのデータは、ユーザーの許諾を得た上で広告配信に活用することができます。統計化されたデータをシードと呼ばれる広告の元の種とし、それを拡張することで、通常のプラットフォームではできないようなセグメント情報を作ることも可能です。「Rakuten AIris」は、シードとなる楽天IDから、精度の高い拡張配信とユーザーの可視化を実現します。

 

 

デジタルツインが描くユーザー像

 

デジタルツインが描くユーザー像

 

 近年デジタルツインという言葉を、たびたび耳にするようになってきましたが、当社でもオフラインのタッチポイントも含めた「楽天エコシステム(経済圏)」の膨大なデータを駆使し、ユーザーのデジタルツイン、「実際のユーザーがどういう人なのか」を具体化する取り組みをしています。

 データは蓄積して活用することは可能です。そしてユーザーに利用目的を明示し許諾を得られれば、広告に活用できます。当社はユーザーに「楽天ポイント」を提供することで、データの利用を推進させていただいています。

 ユーザーの行動変容を促していくためには、感情や様々なモーメントを考える必要があります。当社では属性情報や趣味嗜好データ、行動データなどを基に、多様なセグメントを作り、クライアント様のご要望やマーケットニーズに合わせた広告配信が可能となっています。また、その膨大なセグメントをクロスすることで、さらに膨大な組み合わせにおけるターゲティングも行うことができるため、広告配信プラットフォームやダイレクトメールなどで配信させていただいております。

 当社には国内のIDホルダーとしては最大級となる、1億以上の楽天会員とそれに基づく楽天IDがあります。またそのIDには非常に多岐にわたるタッチポイントから蓄積したユーザーのデータが含まれているため、「フルファネル」と呼ばれる、マス広告から最終的なコンバージョンポイントまでを結びつけられる、数少ない広告マーケティングにおけるプラットフォーマーだと自負しています。

 今後はデジタルツインも併用し、「楽天市場」だけでなく、オフラインやテレビ、屋外広告など様々なタッチポイントにおいて、購買リフトの有無や、購買リフトが起きたユーザーの可視化、来店促進の成果などを視覚化していきたいと考えています。

 

オンオフをつなげ、デジタルマーケティングを次のステージへ

 オフラインにおいても、様々な流通の皆様とデータをつなぐということを行っております。町中で楽天ののぼりが立っている「楽天ポイントカード」の加盟店様では、ユーザーに「楽天ポイント」を提供しています。「楽天ポイント」をユーザーが受け取るためには、楽天IDが必要になりますので、楽天IDに基づいたユーザーの可視化が可能になるのです。

 他にも、ユーザーから許諾を得た上でロケーションデータを使い広告を配信する「Super Point Screen」や、毎日更新されるクーポンを取得し、オフラインで該当商品を購入してからレシートを撮影して送付すると、「楽天ポイント」を獲得できる「Rakuten Pasha」などがあります。「Rakuten Pasha」においては、月間500万枚以上のレシートをお預かりしており、ユーザーのオフラインにおける併売データや、オンラインとオフラインの行動別データなどを蓄積し分析しております。

 このように購買データにおける当社の特徴は、楽天IDを起点とし、流通横断でユーザーを理解し、次のアクションに反映が可能なことです。広告主様の目的や用途によって使い分けることで、デジタルマーケティングが次のステージに進みます。ディスプレイ広告の運用型広告配信プラットフォーム「RMP - Display Ads」のレポートツール「Instore Tracking」では、ユーザーがオンラインの広告やマス広告などに接触した際、その広告がオフラインにおける購買にどの程度寄与したのかを、楽天IDをベースに分析することが可能です。

 当社の広告ビジネスの特徴は、ファーストパーティとして蓄積する膨大なデータ、1億以上の正確なデモグラフィックデータからなる楽天ID、そして「楽天ポイント」というUXを提供することで、より多くのユーザーに広告を伝えることができるプラットフォームであることです。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で行動が変化しているユーザーに、エクスペリエンスを提供する際、当社をご利用いただければ多様なサービスが可能になります。「楽天市場」に出店いただかなくても、ランディングページを持っていただきデータを蓄積させていただければ、当社はファーストパーティとして広告主様への支援が可能になります。

 当社は「Rakuten Marketing Platform」というコンセプトのもと、様々なサービスを開発しておりますので、今後も皆様と一緒により良いデジタルマーケティング、そして広告ビジネスを作っていきたいと思います。

 

紺野 俊介
紺野 俊介Konno Shunsuke
楽天グループ株式会社 執行役員


1975年、千葉県生まれ。横浜市立大学卒業後、EDS Japan(現日本ヒューレット・パッカード)を経て、2003年に株式会社アイレップに入社。デジタルマーケティング事業を牽引し、2006年には大阪証券取引所ヘラクレス(現 大阪証券取引所JASDAQ)への上場に成功。同年取締役に就任。2009年からは10年間代表取締役社長を務め、アイレップを運用型広告でトップクラスの企業へと導く。書籍・コラム執筆や、セミナー講演も多数。2018年7月、楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)入社、同年8月より現職。