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OMO(Online Merges with Offline)のこれまでを紐解き、これからを考える


スピーカー:
株式会社アイリッジ 代表取締役社長
小田 健太郎氏


楽天グループ株式会社 執行役員 コマース&マーケティングカンパニー
マーケティングパートナー事業 ヴァイスプレジデント
石角 裕一

 

 


 

石角:このセッションでは、オンライン/オフラインの歴史を振り返りながら、この先どういった未来が待っているかについて、株式会社アイリッジ 代表取締役社長の小田さんと一緒にお話したいと思います。
まず、小田さんがOMOビジネスをスタートされた経緯を教えていただけますか。

 

株式会社アイリッジ小田氏(右)・石角(左)

 

小田氏:2008年7月にiPhoneが日本に上陸した1ヶ月後にアイリッジは創業し、以来15年間、OMOとスマートフォンアプリに関するビジネスを続けてきました。この領域で、国内ではおそらく最も長く取り組んできた会社です。
創業当時、スマートフォンのおかげで位置情報を取りやすくなったことは大きなインパクトでした。「位置情報」「スマートフォン」「マーケティング」を掛け合わせ、デジタルとリアルの融合が効果的にビジネスに使えるようになり、OMOに繋がってきました。 これまでの英知を結集し、今後もOMOとスマートフォンアプリを効率的に開発・グロースし、さらにOMOを広めていきたいと考えています。

石角:iPhoneの日本上陸と創業が偶然重なったことは追い風でしたか?

小田氏:当時は、いわゆるガラケーでのインターネットビジネスが伸びていた時期だったので、スマートフォンのビジネスに対してはまだ懐疑的な雰囲気がありました。しかし、私は新しく登場したスマートフォンが人々の生活を大きく変えるのではないかと期待し、OMOビジネスにぐっと踏み込みました。

 

 

「OMO」に至るまでの変遷と現在のトレンド

石角:この15年を年表で振り返ってみたいと思います。一番上の赤い囲みは、オンライン/オフラインの融合がどのような言葉で呼ばれてきたかの変遷です。
2018年あたりからOMOという言葉が出てきましたが、それ以降のトレンドについて教えていただけますか。

 

オンラインとオフライン融合の歴史

 

小田氏:まずそれ以前の流れを整理すると、始めは「クリック&モルタル」で、リアルの店舗を持っている企業様がECでモノを売る動きがありました。その後、スマートフォンの登場で位置情報が使いやすくなり、インターネットを通じてリアルのお店に誘導するのが「O2O(online to offline)」です。スマートフォンを活用した情報配信や決済が浸透し始めると、一人ひとりの消費者に向き合ったマーケティングが重要になり、「オムニチャネル」から「OMO」とトレンドが変遷しました。
オムニチャネルで囲い込んだ消費者のデータの一元化が進み、OMOの概念に変わりつつあるのがここ5年の動きです。

石角:OMOでは、共通のフォーマットで管理された全てのデータを、オンライン/オフラインの両方で活用できることが最も重要だと思うのですが、普段、クライアント様と話すと「一度、狭い範囲でテストしてみましょう」となることがあります。私個人の見解としては全部一度にやるからこそ意義があると考えているのですが、小田さんが接する、例えば歴史ある企業様はいかがでしょうか?

小田氏:確かにオンライン/オフラインを融合し、お客様をひとりの人として最適にマーケティングするOMOという概念は、実際にやろうとすると難しい面がありました。リアル店舗での会員カードを通じた会員管理という長く培ってきたシステムと、ECサイトの会員情報の融合は、企業様も5年前までは対応しきれていなかった印象があります。
しかし、コロナ禍で風向きが変わり、オンライン/オフラインの融合は加速しました。20年前から言われていた概念(当時はクリック&モルタル、現在ではOMO)がようやく整ってきたと感じています。

 

小田氏

 

 

世界中でますます注目される「リテールテック」

石角:コロナ禍ではDXという面でも大きな変化が起きました。OMOの分野ではどのような動きがありましたか。

小田氏:DXが加速し、リアル店舗を創業した企業様もECに本気で向き合い始め、レストランなど店舗ではスマホ決済が増えました。お客様が店舗で買っても購買データはデジタル側にあるという、まさにOMOの世界観が整ったのがコロナ禍での動きです。

石角:モバイル決済はここ5年でかなり浸透しました。OMOを進めるにあたり決済データは非常に重要ですので、楽天も様々な決済手段を提供しています。中国は特にモバイル決済が進んでいて、有名なのは「WeChat(ウィーチャット)」「Alipay(アリペイ)」です。
日経の記事で「リテールテックの企業別特許数」がランキング化されていて、1位はECを中心に様々な決済方法を提供しているアリババ(中国)でした。その他、インターネット企業や決済系の企業、小売店などが名を連ねていて、リテールテックは様々な企業が開発しているのがわかります。OMOに活用される技術も膨らんできており、リテールテックは非常に注目されている領域です。

 

リテールテック企業別特許数

 

小田氏:マーケティング領域でのオンライン/オフライン融合だけでなく、企業もデジタル側とリアル側が同じ世界で戦っていると感じます。
石角さんはシンガポール在住とのことですが、その観点からどういう動向が見えるでしょうか。

石角:シンガポールはおそらく日本以上に進化していると思います。
東南アジアでほとんどの人に利用されている「GRAB(グラブ)」は、配車サービスからスタートしたアプリで、今ではフードデリバリー、買い物代行、EC、デジタルバンクなどかなり広範囲にエコシステムを構築しています。GRABのユニークな点としては、契約している600万人のドライバーが、ユーザーのオンライン/オフラインの世界をブリッジする役割を担っていることです。
もしかしたらこの先、決済データではなくフィジカルな存在がオンライン/オフラインがブリッジしていくのかもしれません。

 

石角

 

 

OMOの未来予想「企業から消費者」「五感での融合」

小田氏:デジタルとフィジカルの融合の一例としてGRABをご紹介いただきましたが、もう一つのテーマである未来の話もさせていただきます。
私の視点では、これまでの20年は企業側の視点からオンライン/オフラインを融合させるためにECが登場しました。そして、お客様のデータと位置情報データを一元化しOMOを進めてきました。
これからは、より感覚的な消費者側の体験としてデジタルとリアルが融合していくと考えています。メタバースやAIが徐々に浸透していき、例えば、日常の買い物で商品を見つけるためにウェアラブルグラスを活用し、生体認証で瞬時に決済が可能になるなど、目に映るもの全てのデジタルとリアルが融合していくのではないでしょうか。聴覚や嗅覚も同じように融合が進み、そうやって「未来の生活」になるのではないかと予想しています。

石角:顔認証技術の精度はかなり上がっていると聞きます。例えばお客さんが入店した時に、何を買おうとしているのか、何を検討しているのか顔認証でわかる時代が来るのではないでしょうか。実際に中国ではこれに近いことがすでに行われているようです。

小田氏:OMOの領域でずっとビジネスをしてきましたが、時代と共にマーケティングという概念の中で新しいことが求められ、キーワードも変わってきています。
ウェアラブルのようにデバイスもインフラも大きく進化し、デジタルとリアルを融合する技術がもっと世界に浸透していくのではないでしょうか。今後、そんな世界を体験していけたらと思います。

石角:本日はありがとうございました。

 

●Optimism2023 アーカイブ動画

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※本セッションは3日目(8/4)14:00~14:30の動画をクリックください

 

 

小田 健太郎氏
小田 健太郎Oda Kentaro

株式会社アイリッジ 代表取締役社長


1975年東京都出身。慶応義塾大学経済学部卒業後、NTTデータを経て、ボストン・コンサルティング・グループ入社。モバイル業界を中心に、事業戦略、新規サービス立ち上げコンサルティングを多数実施。2008年にアイリッジを創業し、2015年東証マザーズ上場。O2O/OMO業界のリーディングカンパニーとしてアプリ×デジタルマーケティング領域での事業を展開。アプリ決済やデジタル地域通貨等のフィンテック、MaaS、業務支援といった新たな取組みも進めている。

石角 裕一
石角 裕一Ishizumi Yuichi

楽天グループ株式会社 執行役員 コマース&マーケティングカンパニー
マーケティングパートナー事業 ヴァイスプレジデント


2000年に楽天株式会社へ入社。楽天市場の営業、広告、UI/UX、事業開発を経て、2017年よりシンガポールのRakuten Asia Pte. Ltd.へ赴任し、グローバルでの広告プロダクト戦略、プロダクト開発の責任者を務める。2022年より楽天グループ株式会社執行役員。マーケティングソリューションズ事業の責任者。