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楽天が創る、これからのマーケティング

楽天グループ株式会社 執行役員 グローバルアドディビジョン アドプランニング統括部 ディレクター
紺野 俊介

楽天が広告ビジネスに取り組む理由

 楽天は、4つの大きな柱を事業の中心としています。1つ目は「楽天市場」をはじめとする「Eコマース事業」、2つ目はカード・銀行・証券など多様な「フィンテック事業」、 3つ目はMVNO などの「通信事業」、そして4つ目が「広告事業」です。

 私たちの広告事業の軸はメンバーシップです。国内1億以上の「楽天ID」、そして多くのデータを蓄積しています。これらを活用することで、私たちは広告ビジネスにおいて皆様との接点を作り得ると考えています。

 

 

トレンドはCookieからIDベースの広告へ

 この15~20年間はCookieを使用して広告を配信する仕組みが、広告主様にとって非常に効果的でした。しかしヨーロッパのGDPR(EU一般データ保護規則)や、CCPAと呼ばれるアメリカ・カリフォルニア州の消費者プライバシー法などでCookieを自由に使用できなくなったように、今後は用途を説明しユーザーから許諾を得たデータ以外は利用できなくなると思われます。

 そのような状況を踏まえ、楽天のようにユーザーとのタッチポイントを有している会社が、そのIDをベースに広告の領域に参入していくというのが、世界的にも大きなトレンドになりつつあります。

 

 

「楽天ID」と「楽天スーパーポイント」を活用した販促ソリューション

 楽天が提供する販促ソリューションについてお話しいたします。1億以上の「楽天ID」を活用することで、明確な分析と集客が可能になります。その理由は、IDの精度が高いためです。例えば「楽天市場」で商品を購入したら、配送のために正確な住所を入力するはずです。

 また、楽天は「楽天Edy」・「楽天ペイ」などオフラインのタッチポイントも多数保有しています。精度の高い「楽天ID」から成る多様なオンラインのタッチポイントにオフラインのデータを連携させることで、ターゲットの抽出と分析から最終的な購買の促進までをお手伝いできるのです。

 楽天には「RMP - Brand Gateway」という、「楽天市場」の中に企業がブランドサイトを開設することができる広告商品があります。皆様のオウンドメディア(自社のホームページ)と、当社が持っているデータとを繋げるとなると、前述した個人情報の問題も含め非常に多くのハードルが生まれます。そのため「楽天市場」の中に入り口となるランディングページを常時持っていただくことで、「楽天ID」をもつユーザーを獲得するという仕組みになっています。具体的には、店舗で販売している商品の販促をしていただく場合もあれば、メーカー様が直接「楽天市場」の中に店舗を持ってくださるケースもあります。

 

ロケーション情報×楽天データ

 

 図に示されている画面は、ユーザーから許諾を得てお預かりしたロック画面を、タッチポイントとして広告プロモーション商品にする「Super Point Screen」のサービスです。広告主様はロック画面に動画でも静止画でも表示可能で、ユーザーは画面をスライドしたりページを見たりするなどのアクションに応じて「楽天スーパーポイント」を受け取ることができます。つまり1日に何度も、タッチポイントになる携帯電話を通してユーザーとのエンゲージを作り、興味関心を持ってもらいながらデータを取得することが可能です。

 常時ロック画面をお預かりしているほかに、ユーザーの同意のもとロケーションデータも分析することができます。現在はそのデータを利用して、「ランチタイムにユーザーが一定の距離に近づいたら自店舗のクーポンを出す」というプロモーションにも協力しています。

 また国内のレシピサイトで2番目のユーザー数を持つ「楽天レシピ」は、およそ1500万のMAUがあり、非常に多くのユーザーがタッチポイントを持っています。しかしサイトを訪問したユーザー情報だけではあまり価値を見出せません。そこに私たちの「楽天ID」を掛け合わせることで、「どのようなライフスタイルの人がこの料理を見ているのか」というユーザー像が浮かび上がってきます。つまり「楽天レシピ」というタッチポイントに「楽天ID」のデータを掛け合わせれば、新たな販促の可能性が見えてくるということです。

 

楽天のO2Oを利用した販促効果

 楽天には、「RMP - Omni Commerce」という、楽天のデータによりオムニコマースの興味・行動喚起を図る広告商品があります。これを実現するサービスの一つが「Rakuten Pasha」です。 「Rakuten Pasha」は、毎日更新されるクーポンを獲得し、オフラインで該当商品を購入してからレシートを撮影して送信すると、「楽天スーパーポイント」を獲得できるというサービスです。ただし「楽天レシピ」同様、レシートだけでは有用なデータにはなりません。「楽天ID」を掛け合わせることで、初めてユーザー像が見えてくるのです。

 また提供する「楽天スーパーポイント」も、100円の商品に対し5ポイントや、サンプリング的に高い還元率を設定するなど個別の設計が可能となっています。このサービスを活用すればオフラインでの販促結果を取得でき、ユーザーがどんな商品を併売しているかということも分かります。例えばコンビニやスーパーなどで販促活動をかけて棚落ちを防いだり、自社以外のビールを飲んでいる方にサンプリングとして自社製品を提供したりということも可能になるのです。

 

O2O販促×楽天データのケーススタディ

 

 この図はある飲料のプロモーションデータです。同じ商品でありながら、場所によってユーザーの購入価格が変動しています。そこには需要と供給のバランスであったり、購入先が安売り店とであったりなど様々な要素が関係しているのですが、このようなデータも前述したジオマーケティングと「Rakuten Pasha」経由で送付されたレシートに「楽天ID」を掛け合わせることで、場所に合わせたポイントの提供額を決定できるようになります。

 

楽天のデータサービスを活用した販促効果

販促×データトラッキング

 

 「販促×データトラッキング」も展開予定です。やはりデータは丁寧に追跡する必要があります。私たちは、以前からオンラインの購買では「楽天市場」も含めて確度の高いデータを 分析することが可能でした。それに加えて「Rakuten Pasha」によりオフラインのデータも蓄積できるようになりました。また販売チャネルであるコンビニやドラッグストア・スーパーともPOSの連携させていただいているので、SKU(Stock Keeping Unit)やJAN(Japanese Article Number)を通して、広告に接触したユーザーと接触していないユーザーの実購買数をチェックできます。つまり、インターネット上で「ブランドリフト」と呼ばれる、「広告と接触した時に本当にそのブランドのイメージが上がったのか」を測ることも可能です。

 またユーザーに提供する「楽天スーパーポイント」はアプリにも活用することができます。アプリは「ユーザーに使い続けていただく」ことが難しいのですが、私たちの「楽天スーパーポイントSDK」を活用すれば、設定したログインや特定のアクションなどのミッションを達成すると「楽天スーパーポイント」を付与することが可能になります。

 「自社のサービスだけではリテンションが困難なユーザー」においても、楽天のサービスを活用してタッチポイントを作れるため、皆様のアプリにユーザーを長く留めることができます。もちろんアプリを通してマネタイズを希望される際は、ミッションではなく広告掲載のSDKもご提供いたします。

 プログラマティックにおいても、新たな取り組みを様々な形で提供しています。現状、様々な広告配信プラットフォームがありますが、Cookie中心であったり若干不確かなデータに基づき仮説に仮説をかけて導き出したりというケースが多いのが実情です。しかし私たちは「楽天ID」をベースに、オーディエンスの配信・拡張を行うことが可能です。広告配信でありがちな、新規・既存のユーザーデータを分析できないという問題にも対応でき、さらに「Rakuten AIris」という楽天独自のAI エージェントを活用した配信・拡張も可能です。

 

広告の未来を見据えた多様な楽天のサービス

 すでにアメリカでは開始していますが、来年には国内でもFacebook・Instagramと連携し、「楽天ID」べースで配信が可能になる予定です。

 これにより、セグメント情報が不確かな部分がある広告においても、「楽天ID」 ベースで広告を配信できるようになったり、オフライン購買も「楽天ID」で統合できるようになったりします。

 LINE様との取り組みも行っています。「LINE Ads Platform」にアカウントを持っていない企業様向けに、楽天のサイトを経由することで「楽天スーパーポイント」を付与し、クライアント様の「LINE公式アカウント」にユーザーを誘導するというものです。

 開始当初は「『楽天スーパーポイント』が付与された時点で一定数のユーザーは離脱するのではないか?」という危惧もありましたが、想定以上のユーザーがクライアント様のファンとして定着しているというデータが取れています。同サービスは、トライアルをされた多くのクライアント様が、現在も引き続きご利用くださっています。

 また「楽天ID」は 、SEMにおいても各ユーザーに最適化した情報を提供できます。例えば犬を飼っているユーザーが「ペッドフード」という言葉で検索をした場合、「楽天ID」を掛け合わせれば、さらに踏み込んだ「ドッグフード」という結果を表示できるようになります。

 このように、私たちが目指すのは楽天単独で完結する世界ではなく、様々な広告プラットフォームと「楽天ID」をかけ算することで生まれる新しい可能性です。

 広告という事業は完全にローカルビジネスです。本日お伝えしたID データをベースにしたプロモーションを日本に根付かせるためにも、私たちは「Rakuten Marketing Platform(RMP)」を通して、広告主様たちと連携していきたいと考えています。

 

 

紺野 俊介
紺野 俊介Konno Shunsuke
楽天グループ株式会社 執行役員
グローバルアドディビジョン アドプランニング統括部 ディレクター


1975年、千葉県生まれ。横浜市立大学卒業後、EDS Japan(現日本ヒューレット・パッカード)を経て、2003年に株式会社アイレップに入社。デジタルマーケティング事業を牽引し、2006年には大阪証券取引所ヘラクレス(現 大阪証券取引所JASDAQ)への上場に成功。同年取締役に就任。2009年からは10年間代表取締役社長を務め、アイレップを運用型広告でトップクラスの企業へと導く。書籍・コラム執筆や、セミナー講演も多数。2018年7月、楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)入社、同年8月より現職。