株式会社サイバーエージェント様・株式会社ペンシル様共催の『これから企業が考えるべき、顧客データの有効活用とは?~パーソナルデータ利活用の最先端事例~』セミナーにおいて、各登壇者による講演に続き、「データ活用の未来 最新事例に学ぶ!データ活用の施策と組織論」のタイトルでパネルディスカッションが行われました。
パネルディスカッション
データ活用の未来 最新事例に学ぶ!データ活用の施策と組織論
変わりゆくマーケティング
倉橋氏:本日モデレータを務めます、株式会社ペンシルの倉橋です。本日はデータ活用の施策と組織論ということでお話したいと思います。どうぞよろしくお願いします。
まず「マーケティングの変化」についてお話ししたいと思います。本日のセミナーの中でも、「スマートフォンの登場によってマーケティング手法が多様化し、環境自体が変化したのではないか?」というお話があったのですが、実際に販売をされている外園さんはどのように捉えられていますでしょうか?
外園氏:弊社はこれまで主にオフラインの通販・テレビ・新聞などの紙媒体を利用して成長してきました。そのためオフライン施策の影響で、あまりオンライン施策の精度が高くなくても指名型リスティングだけである程度件数を獲得できていたため、マーケティングをしているようでしていない状況でした。しかしこの多様化の時代になり、我々自身で集客の導線を作らなければならなくなってきたと感じ、様々な取り組みを進めている状況です。
倉橋氏:楽天さんは「楽天市場」を運営されていますが、マーケティング施策の変化というのを感じられていますか?
紺野:楽天に来てまだ1年ですが、入社して気づいたのは、「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」の効能です。「SPU」はキャンペーン的なサービスではなく、該当月であれば常時ポイントが提供されます。他社さんの20%還元などはマーケティング施策的なものなので、売り上げは赤字になっていたりします。一方私たちは「楽天エコシステム」の中で70を超えるサービスを展開しているので、赤字化することなくコスト負担が可能です。ただ外園さんとある意味近いのですが、PCだけでなんとかなっていたため、モバイル化が今後の課題です。あとはテレビへの対応でしょうか。日本はテレビの影響力がまだ強く、効果をしっかり検証しているはずのGoogleやFacebookも広告を打っています。ただマスを通して伝える時代は、そろそろ変わりつつある、というのは実感しています。
倉橋氏:やはりテレビの力は非常に強くて、その影響を無視できないからこそテレビとウェブ、モバイルとの連動というのは重要視されているのでしょうね。
LINEさんは最近「Life on LINE」を推奨されていますが、マーケティングの変化など考えられることありますか?
北出氏:楽天さんと弊社は真逆で、アプリ中心なのでほとんどがアプリのデータになります。そのためアプリ内の行動だけでユーザーを推定して、マーケティングをしていくというのが強みでもあり弱みでもあります。「Life on LINE」の流れでは、弊社はスマートフォンが普及したことで強くなった会社なので、スマートフォンの次の時代に向けて「LINE Clova」などをはじめとして色んなデータを活用していきたいと思っています。
倉橋氏:やはりモバイルは常に持たれている物なので、そこからデータをきちんと取れるのはインフラとしては非常に必要なことだと思います。
データ活用の課題
倉橋氏:次の質問はデータ活用の課題についてです。実際活用しようと思った時に「何から始めれば良いのか?」、「何が課題になるのか」について、外園さんいかがでしょうか?
外園氏:「データを活用して新しい何かをしたい」となった時に、従来のデータだけでは対応できず、新たなデータを蓄積するために時間がかかってしまう点が課題だと思っています。
倉橋氏:羽方さんは様々な企業様のデータ活用についてスタートから入られることが多いと思うのですが、その時に課題になっている具体的なことはありますか?
羽片氏:うまくいくケースは、トップがコミットして「部門を横断してデータの取りこぼしがないよう全部動かす」か、もしくは「自部門のデータ活用をカジュアルにすぐ始める」かです。うまく行かないケースは、「責任者がいない状態で、全てのデータを取らなければ」というアプローチです。
倉橋氏:「データ活用に時間がかかることを理解させるにはどうしたら良いでしょうか?」という質問もあったのですが、どのようにアプローチされているのでしょうか?
羽片氏:「データ」を主語で進めると、あまりうまくいかないケースが多いですね。「売り上げが上がるのか」、「お客様の体験が良くなるのか」という二点に話を帰着させれば、伝わりやすいと思います。
倉橋氏:楽天さんには約300人のデータアナリストがいらっしゃるそうですが、データを見るのが当たり前という状態になっているのでしょうか?
紺野:羽片さんのお話に沿うと、まず弊社では三木谷という稀代の経営者が号令をかけてくれます。あとはEコマースからスタートしたためデータを分析するのは必須でしたね。ただデータは蓄積すればするほどコストがかかります。そのためデータをマネタイズする必要が出てくるのですが、内部CRMで使うだけでは不十分なので、十分に活用できる広告事業を弊社は始めました。コストを1年で回収することは難しいので、単年度の売り上げに敏感な部門の理解を得ることが重要だと思います。
倉橋氏:経営陣をコミットさせ、コストがかかるのは覚悟したうえで「資産であるデータをどう活用するか」という話をするしかないということですね。
パートナー企業との関係構築
倉橋氏:続いては「パートナー企業に求めること」です。パートナー企業はクライアントを支える立場の人たちですのでリクエストやメッセージがあれば頂きたいと思います。外園さんいかがでしょう?
外園氏:事業を推進するには、代理店やプラットフォームなどのパートナー企業が必要です。しっかりと取り組めば結果が出て、その結果がさらなる投資に繋がるというのが会社の仕組みですので、真摯に我々と一緒に同じ方向を向いて取り組んでくださるパートナー様はありがたいですね。
倉橋氏:本日のセミナーでサービスの多様さを改めて感じたのですが、楽天さんは、それらのサービスを活用して総合的に支援をすることが可能なのでしょうか?
紺野:まだ道半ばですが、それを成すために今私は楽天にいます。例えば、コンシューマー事業のメーカー様で楽天にフラッグシップ店舗を持ってくだされば「楽天完結モデル」を作れます。他方、不動産や人材系教育組織などにご提供できるのは、メール広告やダイレクトメールです。楽天のケイパビリティをクライアントのビジネスに合わせて提供することのできるメンバーが更に必要だと思うので、その育成を進めているところです。
倉橋氏:実際に支援をされている羽片さんはいかがですか?
羽片氏:「オリエンテーションを変えてください」と広告主様に言いに行くことが多いです。「認知率を何パーセント取りたい」「CPAでいくら取りたい」というオリエンテーションが大半なのですが、それはメディアのプランニングで終わってしまう仕事です。そのため「このオリエンテーションは、どの程度の規模の事業をするためのものですか?」と、「オリエンテーション返し」をしています。それに対し「このようなビジネスをしたい」という回答が得られれば「このタイミングで、このようなことをしたほうが良いですよね」と、インターネット広告以外も含めた戦略から話せるようになりました。そうなると、もう一蓮托生なので二人三脚のようにうまくいくことが多いですね。
紺野:一つ質問してもいいですか?前職の代理店時代、クライアントとのやり取りで、「体制図は分かりました。では誰が担当してくれるんですか?」と聞かれることが多かったのですが…。
羽片氏:はい、毎回あります。「提案は15人で来るし、かっこいい肩書きの人が大勢いますが、誰が最後の責任を持ってくれるんですか?」と、よく聞かれます。やはりお客様にとって「誰が担当してくれるのか」は重要なので、「この担当者の時間は何時間使えます」と明示するようにしています。
倉橋氏:デジタルが事業のコアに入ってくればくるほど、誰と一緒に仕事をするかが非常に大事になってくるんですね。
「楽天ID」とテレビ視聴データはどのように連携するのでしょうか?アンケートベースでしょうか?紺野さんいかがでしょう?
紺野:弊社には「Rakuten パ・リーグ Special」などを配信している「Rakuten TV」というサービスがあるのですが、こちらはヨーロッパでも提供しています。アンケートベースもゼロではありませんが、「Rakuten TV」 にログインするには「楽天ID」が必要なので、すでに直接一人ひとりに繋がっていると考えています。また、まだ日本ではこれから伸びていくサービスですが、「Viber」というコミュニケーションツールも持っています。こちらは世界で10億人以上の方にご利用いただいていて、今後どのように連携させていくのかを検討しています。
倉橋氏:続いては、「Rakuten Pasha」に関する質問です。「顧客データの管理が厳しいイメージがあるのですが、どのようなユーザーがキャンペーンに参加したか、どこまで開示できるのでしょうか?」ということですが、いかがでしょう。
紺野:「Rakuten Pasha」単独でユーザーから許諾を得ています。個人情報は開示できませんが、弊社は蓄積しているデータをセグメント化してクラスターにはしていけるので、統計データとしてクライアントにはご提供できます。
倉橋氏:そろそろ時間なので、まとめさせていただきます。
本日の全てのセッションを通して、「データの活用がより良い背景を作ったり、売上を作ったり、何かしらの利益に繋がる」ということと、「顧客情報が良いデータとしてフィードバックされ、さらにより良い体験を顧客に提供できる」ということが非常に重要ではないかと感じました。またそれを実現するには、「経営陣も含めてコミットさせて実行」していかなくてはなりません。プラットフォーマーの皆様と支援するクライアントが一体となって、「提供するサービスの幅を広げていく」ことが必要ではないかと考えています。
本日はありがとうございました。
グローバルアドディビジョン アドプランニング統括部 ディレクター
1975年、千葉県生まれ。横浜市立大学卒業後、EDS Japan(現日本ヒューレット・パッカード)を経て、2003年に株式会社アイレップに入社。デジタルマーケティング事業を牽引し、2006年には大阪証券取引所ヘラクレス(現 大阪証券取引所JASDAQ)への上場に成功。同年取締役に就任。2009年からは10年間代表取締役社長を務め、アイレップを運用型広告でトップクラスの企業へと導く。書籍・コラム執筆や、セミナー講演も多数。2018年7月、楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)入社、同年8月より現職。