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パネルディスカッション
デジタル広告にもっと透明性を。アドテク市場の2020年を予測する


株式会社Phybbit 代表取締役社長
大月 聡子 氏

ソフトバンク株式会社 デジタルマーケティング事業統括部
アカウントプランニング部 担当部長
中川 太 氏

楽天グループ株式会社 執行役員
紺野 俊介

 

ネット広告が抱える問題点

大月氏:2018年の日本のネット広告費は約1.76兆円。前年比で116.5%となり、今、非常に伸びている領域です。

 最近はネット広告の問題点に焦点を当てた番組が放送されています。番組内で取り上げられたアドフラウド問題などに関して、番組が放送されてから社内で何か変化はありましたか?

中川氏:私の部署はお客様にサービスを提供する以外に、グループ企業のマーケティング支援をしています。様々な広告を取り扱うため多くの方と関わるのですが、実際に広告を扱っている私たちからすると、昔からよくある話ですのでそこまで大きなショックは受けませんでした。

 しかしクライアント側では、広告に携わらない部署から広告関係部署に対して「大丈夫なのか?」という声もあり、ニュースを見た上層部からも、自社の状況に関する確認があったようです。

紺野:今回番組で取り上げられたことによって一般化され、世間に影響が出るようになったということだと思います。ただ実際は、小規模にDSP(Demand Side Platform)やSSP(Supply Side Platform)を使って行われていることで、メジャープレイヤーにはあまり影響はなかったと思います。アルゴリズムの低下などはありましたが。

 楽天グループはアフィリエイト領域ではASP(Affiliate Service Provider)を運営しており、独自のアフィリエイトサービスがあります。また広告事業以外にも楽天のブランドを守るためのブランドチームもあるため、従来よりもさらに連携を密にして安全性を確認しています。

 そのうえで第三者が提供するブラックリストだけではなく、各事業が持っているブラックリストを共有するなど、改めて漏れがないかを確認しています。特にASPの場合は疑似ASPのような自分たちで制御できないものもありますし、今回の件をきっかけに全社で再度徹底的な確認を行う必要性を感じています。

 何が安全かという基準はさておき、万全の管理が行われなければ、思わぬところに広告は出てしまいます。その結果、ブランド毀損が起きるリスクもあります。

 テレビCMや新聞広告を出された際は、どこに自社の広告が出ているか認識されているはずです。ネット広告でも代理店などに一任したり媒体のシステムを全て信頼したりするのではなく、出稿主側も自分たちが管理している広告にしっかりと向き合うことが必要だと思っています。

 

 

日本のアドテク企業が外資と対抗するために必要なことは?

大月氏:日本のアドテク企業は、どのようにすれば外資に対抗できるのでしょう?

紺野:広告ビジネスはローカルのビジネスです。基本的にパブリッシャーは日本の掲載面ですし、ユーザーも基本は日本です。

 日本の人口は1億2000 万人以上で、さらに一定のGDPがある国です。その日本の広告ビジネスには、まだテクノロジーでアプローチする余地が残されています。

 グローバルで戦うには、プラットフォーマーとしてグローバルに戦うのか、アドテク企業として日本で戦うのか、という点を明確に選択しないと戦いづらい世界です。

 まだ成長期ではあるものの、成熟期を迎えようとしているインターネットの世界で戦おうと考えた時に、どの国で、どの商品で戦うかをよく考える必要があると思います。

中川氏:紺野さんは世界の現状をご覧になっていると思うのですが、日本のメディアやエージェンシーが、世界と比べて秀でていると思う点はどのようなところですか?

紺野:アメリカをはじめ他の国々と比べると、日本の会社はクリエイティブに注力しています。日本ではその差違で戦えますが、グローバルでは細かすぎて行き過ぎたサービスになってしまうケースもあります。海外からの視点も加えて、日本の細かさとダイナミズムを組織やシステムに融合するという点で戦えば、方法はあるのではないかと思います。

大月氏:日本の場合は日本特有の環境があるため、細かく手をかけてもしっかり利益が上がります。他方アメリカはグローバルでマスも広く、一人ずつ細かく手をかけても採算が取れないという発想があるため、オートメーションが進んでいるイメージがあります。

紺野:どこと戦うかだと思います。目指す先として日本のマーケットも十分大きいですし、グローバルで考えても友好的な国も数多くありますので、そこで戦うことを選んでも十分マーケットはあるのではないかと思います。

 

 

これからアドテクはどこに向かうのか

大月氏:次のトピックに移ります。Cookie問題などが様々な所で話題に上っています。その点を踏まえ、中長期的に今後アドテクはどうなっていくと思いますか?

中川氏:GDPR(一般データ保護規則)とITP(Intelligent Tracking Prevention)が施行されるまでは、何かイノベーティブなことが起きたとしても、Cookieベースの広告配信がなくなるイメージはありませんでした。CCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)やCOPPA(児童オンラインプライバシー保護法)などを見ても、今後は、使われていることをユーザーが認識しづらいデータは使用できなくなっていくのではないでしょうか。

 結論としては、IDベースのものが主流になり、それをうまく使う方向に向かうのではないかと思います。

紺野:私も同意見です。インターネットが様々な意味で成熟してきている中、ユーザーのリテラシーも上がり、法律もできました。これまでのCookieをベースにする広告配信は、なくなるとまでは言わないまでも、今より難しくなっていくと思います。

 ユーザーにデータの使用方法を明示し、理解してもらうことが必要になります。その点から考えると、分かりやすいのはIDベースです。Cookieも一定の範囲で利便性は残るため、従来の使い方をどのように変えていくのか求められるでしょう。

中川氏:Cookie問題は私たちの業界だけの問題で、実は広告を見ているユーザーからするとほぼ関係なく、裏で違う何かが使われるようになるだけ、という話ではないかと思います。

紺野:検索もセッション範囲で自分が調べた結果を出しているだけなので、Cookieは関係ありません。IDベースで出されるレコメンドも、あくまでもIDで許容された範囲内です。

 

 

自社でIDを持たない場合の解決方法は?

大月氏:ではシリアスな問題になると考えてらっしゃる、会場の方々に何かアドバイスはありませんか? IDベースになるとするとIDを持っていない方たちは、IDを持っているプラットフォーマーと組むというソリューションになるのでしょうか。

紺野:そのソリューションは先ほどの話と重なります。明確にユーザーから許諾を得たIDデータを蓄積している会社を選ぶことが重要です。

 そしてそのデータにも種類があります。提供元のCRM(Customer Relationship Management)にしか使えないデータ。何らかのアライアンスによって、クライアントを含めた分析に使えるデータ。ユーザーに使用方法を明示して、許諾を得た広告に使えるデータ。

 今Cookieは広告に使えるデータとして使用されていますので、今後はその使用方法を明示する仕組みや制度ができ、それを提供可能なサービスができるのだと思います。

 もちろんそれは弊社のようにIDを持っているところでもあり、他のベンダーのプラットフォームにもなり得ます。

中川氏:紺野さんがおっしゃったように、IDデータにはレベルがあります。ネット広告において今までCookieが担っていた役割が1/5や1/10に減少するだけで、それを前提に何かを他で組み立てれば良いと考えます。今まで享受していたDSP側のサードパーティーでのターゲティングや、第三者サーバーでの効果測定のような物が、ほとんど使えなくなるというだけの話だと思います。

大月氏:時間になりました。みなさん本日はお時間をいただきまして、ありがとうございました。

 

パネルディスカッション「デジタル広告にもっと透明性を。アドテク市場の2020年を予測する」

 

 

大月 聡子 氏

株式会社Phybbit 代表取締役社長

PhybbitのCo-founder兼CEO。8年前に原子物理の修士を終了後に、当時の研究室や先輩、他大学の物理のメンバーと共にPhybbitを創業。そして約2年前にAI搭載アドフラウド対策ツール「SpiderAF」をローンチ。サービスは順調に成長し、日本のアドテクマーケットを牽引する。

中川 太 氏

ソフトバンク株式会社 デジタルマーケティング事業統括部 アカウントプランニング部 担当部長

ソフトバンクの法人事業部門にて、デジタルマーケティングサービスを企業向けに提供するプロダクトセールス部門に所属。データを活用したマーケティングサービスの提供を中心に、広告のプランニング&運用など、企業のデジタルトランスフォーメーションをトータルに支援。ウェブ解析士マスター、日本VR学会認定技術者としての活動も行う。

紺野 俊介

楽天グループ株式会社 執行役員

1975年、千葉県生まれ。横浜市立大学卒業後、EDS Japan(現日本ヒューレット・パッカード)を経て、2003年に株式会社アイレップに入社。デジタルマーケティング事業を牽引し、2006年には大阪証券取引所ヘラクレス(現 大阪証券取引所JASDAQ)への上場に成功。同年取締役に就任。2009年からは10年間代表取締役社長を務め、アイレップを運用型広告でトップクラスの企業へと導く。書籍・コラム執筆や、セミナー講演も多数。2018年7月、楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)入社、同年8月より現職。