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企画セッション
消費行動の変化に広告主はどう対応し、テレビ業界は何をすべきか?

【前編】


モデレーター:
株式会社LivePark 代表取締役社長 安藤 聖泰 氏


パネリスト:
花王株式会社 先端技術戦略室 マネージャー 生井 秀一 氏


株式会社フジテレビジョン 総合事業局イベント事業センター
ライツ事業戦略部プロデューサー兼コンテンツ事業センターコンテンツ事業室 下川 猛 氏


楽天グループ株式会社 グローバルアドディビジョン 市場ソリューション推進部 ゼネラルマネージャー
楽天データマーケティング 執行役員 盧 誠錫


 

消費行動の変化

安藤氏:周知の事実ではありますが、インターネットの登場で生活は大きく変化しました。特にこの10年はスマートフォンの登場により、一気に変化が加速したのではないかと思います。

 セッションのタイトルにある「消費行動の変化」という観点では、10年前と比較するとEコマースで商品を買う頻度は増え、電子決済も活発化しスマートフォンで物を購入する生活になってきています。

 一方、テレビ業界では、近年広告収入の落ち込みや業績引き下げが伝えられています。テレビ広告費がネットに流れているといわれている今、テレビ業界は何をすべきなのか、本セッションで考えていきたいと思います。

 Eコマースはこれからも確実に伸びていくと思われます。盧さんはまさに楽天データマーケティングに所属され、楽天の広告やデータも取り扱っていらっしゃいますので、まず楽天の盧さんに、消費行動の変化や海外の現況なども含め、今後の日本国内の動きについてお伺いしたいと思います。

 

 

ドラスティックに変化する中国のEC

盧:私たちは今後の施策を考える時、まず海外の事例を調べ日本国内のコンディションと比較します。その際、指標にするのがEC化率です。日本国内の全ての一般消費におけるEコマースが占める割合は2018年で6%前後。一方、中国は2018年には約18%に達しています。

 中国で何が起きているのかというと、個別のメーカーさんに限ると全体の半分ぐらいがEコマースで売れているケースもあるようです。すると必然的にEコマースでユーザーに商品を買ってもらう前提で設計する方が、すべてのプロモーション活動の効率が良くなってきます。

 そのため中国では、日本でいう従来のマス広告経由で店頭購入を促す流れではなく、ECサイトの公式店舗を中心に設計し、そこで購入してもらうための広告宣伝企画を実施するという動きが急速に拡大しています。

 結果、業界のプレイヤーも変化しています。日本では、「ターゲット設計」→「商品ターゲットの絞り込み」→「訴求ポイントの決定」→「実行」という流れで、プロモーション計画やコミュニケーション戦略を行っています。そしてテレビCMへの投下金額やデジタルへの予算の割り当てをしたあとリーチの想定を行い、最終的に商品の販売は店頭で、という設計だと思います。

 一方、中国ではすでにその流れが逆になり、購買地点から設計が始まっています。ターゲット層ごとの購入方法や購入ルートを分析し、それぞれの層に最適なプロモーションを行っているのです。コミュニケーション手法の検討、ターゲット層にリーチするためにはどの媒体が適しているのか、とすべて逆算で設計され始めています。

 つまり、日本では広告代理店などのエージェンシーがプロモーション設計を行いますが、中国では最終的な購入ポイントであるECサイト内の公式店舗の運営事務所が、その上流のプロモーションまでをすべて担っているのです。

 

 

変わりゆくECとテレビの関係

盧:では今後日本も中国のようにドラスティックに変化するかというと、そうはならないと思います。中国と比較すると、コンビニエンスストアに代表されるオフラインの利便性が高いためです。日本には日本のデジタルコマースのあり方があると思うので、私たちはプレイヤーの一人として推進していこうと思っています。

 テレビとの関係においては、ゴールデンタイムHUT(Households Using Television/総世帯視聴率)の過去20年間の数字を見ると、この10年で10ポイントほどリーチが減少しています。しかし未だ約6割のリーチを持つテレビは重要な媒体ですので、マーケティング・流通までを押さえた垂直統合のビジネスをテレビも含めてどのように作っていけるかという観点で、私たちは取り組んでいきたいと考えています。

安藤氏:続いて生井さん。マスマーケティングに注力してこられている花王さんとして、今までとこれからの取り組みをお話しいただけますか。

生井氏:私が「メリット」のブランドを担当した2012年当時は、秀逸なキャッチコピーとノンシリコンシャンプーを武器に切り込んできた会社が現れた頃で、ヘアケア市場は非常に大変でした。

 私がEコマースの部門に異動になったのは2015年。消費者がモバイルなどを使って、比較検討という行動を取り始めた頃です。昔はテレビでCMを流せば店舗に買いに行ってくれるというマーケティングでしたが、SNSの普及によりお客さま自身の声やイノベーターの言動の影響が大きくなっていました。

 そのため店頭であれEコマースであれ、お客さまに「メリット」のブランド価値をしっかり伝えて購入につなげるという一連の流れを作り上げることに注力してきました。ただEコマースならではの要素である、購入後のお客さまによるレビューへの対応は難しく、楽天さんと一緒に取り組んでいます。

安藤氏:比較検討や人の評判・レビューなどによって変わる購買行動に対して、どんな工夫をされているのでしょう?

生井氏:「失敗していこう」と社内に宣言しています。例を挙げると、弊社は各商品に対してキーメッセージやキーコピーを1本決めるのですが、「ピュオーラ」という歯磨き粉には、口内環境を整えるという製品の特徴をそのまま使いました。すると全くお客さまに響かなかったのです。

 そこで商品のレビューに投稿されていた「この歯磨き粉は研磨剤が入ってないから、電動歯ブラシと使うと凄くいいよね」というコメントを参考に、「電動歯ブラシの方にオススメ」とコピーを変更しました。そして電動歯ブラシの購入者に向けて広告を実施したところ、売り上げが上がったのです。つまり失敗を経て、お客さまからのレビューをヒントにクリエイティブを変えたことで、良い結果に繋がったということです。

安藤氏:非常に面白い話ですね。お2人のお話を踏まえ、下川さんいかがでしょうか?

下川氏:テレビ業界もHUTの低下などの認識はしています。また生井さんのお話にあったように、マーケティングがテレビ中心ではなく、皆さんが全体を見ながら構築されていることは感じています。

 盧さんは“まだ”6割とおっしゃってくれましたが、“もう”6割ですので、失った1割を補完できるようなデジタルを含めた取り組みを、私たちテレビ局サイドも積極的に行う必要があります。

 現在、テレビが「認知」という一点でしか機能していないのであれば、デジタルの部分での取り組みが課題の一つになると思います。テレビ番組の無料配信サービスである「TVer」や、私が以前から行っている放送連動企画などの新しい広告商品開発も含め、取り組んでいく必要があると考えています。


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企画セッション「消費行動の変化に広告主はどう対応し、テレビ業界は何をすべきか?」【前編】

 

 

安藤 聖泰 氏

株式会社LivePark 代表取締役社長

1997年 日本テレビ放送網株式会社入社。地上デジタル放送、ワンセグ放送の立ち上げやインターネット関連サービスの企画をはじめとする放送通信連携サービスに携わる。2010年よりIT情報番組iCon(アイコン)のプロデューサー。2015年5月株式会社HAROiDを立ち上げ、代表取締役に就任。2019年8月株式会社HAROiDを分社し株式会社LiveParkの代表取締役に就任。

生井 秀一 氏

花王株式会社 先端技術戦略室 マネージャー

1999年に花王に入社。12年間の営業を経てヘアケア事業部に異動し、今年発売50周年を迎えるメリットシャンプーのブランド担当に。2015年にEコマース担当となり、現在先端技術戦略室所属。

下川 猛 氏

株式会社フジテレビジョン 総合事業局イベント事業センター
ライツ事業戦略部プロデューサー兼コンテンツ事業センターコンテンツ事業室

2001年に読売広告社に入社。7年間代理店営業を行う。2007年にフジテレビ入社。デジタルや編成などの部署を経て現在はIPコンテンツ業務、配信オリジナルコンテンツ制作を担当。

盧 誠錫

楽天グループ株式会社 グローバルアドディビジョン 市場ソリューション推進部 ゼネラルマネージャー
楽天データマーケティング 執行役員

1999年にコンサルティングファームに入社。2006年にWebサービスのスタートアップベンチャーを立ち上げ、動画を活用した多数の Webサービスの立ち上げ・運営に携わる。2013年に楽天に入社。