変わりゆくECとテレビの関係
盧:では今後日本も中国のようにドラスティックに変化するかというと、そうはならないと思います。中国と比較すると、コンビニエンスストアに代表されるオフラインの利便性が高いためです。日本には日本のデジタルコマースのあり方があると思うので、私たちはプレイヤーの一人として推進していこうと思っています。
テレビとの関係においては、ゴールデンタイムHUT(Households Using Television/総世帯視聴率)の過去20年間の数字を見ると、この10年で10ポイントほどリーチが減少しています。しかし未だ約6割のリーチを持つテレビは重要な媒体ですので、マーケティング・流通までを押さえた垂直統合のビジネスをテレビも含めてどのように作っていけるかという観点で、私たちは取り組んでいきたいと考えています。
安藤氏:続いて生井さん。マスマーケティングに注力してこられている花王さんとして、今までとこれからの取り組みをお話しいただけますか。
生井氏:私が「メリット」のブランドを担当した2012年当時は、秀逸なキャッチコピーとノンシリコンシャンプーを武器に切り込んできた会社が現れた頃で、ヘアケア市場は非常に大変でした。
私がEコマースの部門に異動になったのは2015年。消費者がモバイルなどを使って、比較検討という行動を取り始めた頃です。昔はテレビでCMを流せば店舗に買いに行ってくれるというマーケティングでしたが、SNSの普及によりお客さま自身の声やイノベーターの言動の影響が大きくなっていました。
そのため店頭であれEコマースであれ、お客さまに「メリット」のブランド価値をしっかり伝えて購入につなげるという一連の流れを作り上げることに注力してきました。ただEコマースならではの要素である、購入後のお客さまによるレビューへの対応は難しく、楽天さんと一緒に取り組んでいます。
安藤氏:比較検討や人の評判・レビューなどによって変わる購買行動に対して、どんな工夫をされているのでしょう?
生井氏:「失敗していこう」と社内に宣言しています。例を挙げると、弊社は各商品に対してキーメッセージやキーコピーを1本決めるのですが、「ピュオーラ」という歯磨き粉には、口内環境を整えるという製品の特徴をそのまま使いました。すると全くお客さまに響かなかったのです。
そこで商品のレビューに投稿されていた「この歯磨き粉は研磨剤が入ってないから、電動歯ブラシと使うと凄くいいよね」というコメントを参考に、「電動歯ブラシの方にオススメ」とコピーを変更しました。そして電動歯ブラシの購入者に向けて広告を実施したところ、売り上げが上がったのです。つまり失敗を経て、お客さまからのレビューをヒントにクリエイティブを変えたことで、良い結果に繋がったということです。
安藤氏:非常に面白い話ですね。お2人のお話を踏まえ、下川さんいかがでしょうか?
下川氏:テレビ業界もHUTの低下などの認識はしています。また生井さんのお話にあったように、マーケティングがテレビ中心ではなく、皆さんが全体を見ながら構築されていることは感じています。
盧さんは“まだ”6割とおっしゃってくれましたが、“もう”6割ですので、失った1割を補完できるようなデジタルを含めた取り組みを、私たちテレビ局サイドも積極的に行う必要があります。
現在、テレビが「認知」という一点でしか機能していないのであれば、デジタルの部分での取り組みが課題の一つになると思います。テレビ番組の無料配信サービスである「TVer」や、私が以前から行っている放送連動企画などの新しい広告商品開発も含め、取り組んでいく必要があると考えています。
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