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企画セッション
消費行動の変化に広告主はどう対応し、テレビ業界は何をすべきか?

【中編】


モデレーター:
株式会社LivePark 代表取締役社長 安藤 聖泰 氏


パネリスト:
花王株式会社 先端技術戦略室 マネージャー 生井 秀一 氏


株式会社フジテレビジョン 総合事業局イベント事業センター
ライツ事業戦略部プロデューサー兼コンテンツ事業センターコンテンツ事業室 下川 猛 氏


楽天グループ株式会社 グローバルアドディビジョン 市場ソリューション推進部 ゼネラルマネージャー
楽天データマーケティング 執行役員 盧 誠錫


 

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これからのECに求められること

安藤氏:皆さんの話の中で様々なキーワードが出てきましたので、一点ずつ深掘りをさせてください。

 まず盧さん。中国では、売り上げの半分以上がEコマースになっているメーカーもあるという点で、国内最大のEC事業者である楽天さんとしては、今後日本でどのようにEコマースが拡大・普及していくイメージでしょうか?

盧:ユーザーがEコマースを使う理由を概括的に2つに分けると、1つは買い物する場所として便利だから。もう1つは、そこで知り得る情報に惹かれて。この2つのパターンがあるのではないかと思います。

 前者の代表的な例は水などの飲料です。特に都会の方はEコマースで飲料を頻繁に買われます。飲料は重いので大量に買って持ち帰るのが大変だからです。一方、地方の場合は車で買い物に行く方が多いため、飲料をEコマースで買う方は多くありません。

 飲料の話は一例ですが、このようにユーザーが買い物をする際に利便性を追求していくと、Eコマースが伸びていくというのが1つ目のパターンです。

 2つ目のパターンは、先ほどの生井さんのお話ともつながります。いまの時点においても、特定ジャンルのプロダクトではEC化率が約20%の商品も存在します。そんな商品の特徴は、購入するとどんな良いことがあるのかしっかり価値訴求ができていることです。

 生井さんのお話に出てきたシャンプーも、インターネットが登場したことで、ユーザーは様々な情報から自分の価値観に沿った商品を買うようになり、成分や効能などの説明が十分でないと手に取ってもらえなくなってきたのだと思います。

 昔は画一化されていた消費者のニーズが多様化したことで、他の商品とは異なる付加価値をつけて高単価で販売するという流れが進んでいくと思います。そしてその商品の価値を訴求するという点では、デジタル媒体には制限がありません。使い勝手が向上していき、連携してEコマースが伸びていくといったシナリオもありえると思います。

 中国の場合は、大手のWebメディアがコマースの起点となり、様々な媒体やサービスを展開しています。すべてのデータはつながっていて、企業がどこでどのように動いたら、どんなユーザーが動き、最終的に購買につながるのか、すべてデータで分かっています。それが2012年以降中国のEコマースが急伸している一つの要因にもなっています。

安藤氏:生井さん、今の盧さんのお話と、さきほどご自身が触れられていたレビューに関して、いかがでしょう。

生井氏:先ほど例として取り上げた「メリット」というシャンプーは、ロングセラーブランドです。弊社は2年ごとに改良を行い、あわせてテレビCMも変え、積極的にGRP(Gross Rating Point/ 延べ視聴率)も投下します。でも私は、それではもったいないのではないかと思っています。

 「メリット」の元来の価値は泡立ちです。ふわふわの泡が地肌の隅々まで届いて、小さなお子様の弱い力でも洗い流せるのが、本来の価値なのです。ところが改良を重ねることによって、新しくなった点だけをユーザーに伝えてしまうので、他社の製品と比較すると本来の価値があまり伝わっていないのではないかという課題があります。

 結局テレビで伝えられないものは、いろんな媒体を使って伝えるしかないと思います。

 

企画セッション「消費行動の変化に広告主はどう対応し、テレビ業界は何をすべきか?」【中編】

 

 

デジタルへと変化するテレビ広告の役割

安藤氏:テレビ局として、ここまでのお話を聞いて下川さんいかがでしょう。

下川氏:このセッションのテーマである「消費行動の変化」において、テレビ自体も放送波でコンテンツを商品として放送していますが、盧さんや生井さんのお話と同様に、テレビ番組自体の消費のされ方が変化してきています。

 HUTが下がっていることもその一つで、ゴールデンタイムに家のリビングでテレビを見るという方が減少し、タブレット端末などテレビの受像機以外で見ている方も増えてくるなど、テレビを取り巻く消費行動が変化していることは認識しています。

 コンテンツをどのようにしてお届けしていくか、スポンサーが効果的に伝えたい広告メッセージをどのように訴求していくか、それが一番の課題です。この点はスポンサーの方々やEコマースなどのサービスの方々と同じ悩みを抱えていますので、私たちもその答えを探すことが、良い仕事につながっていくのではないかと思っています。

 強い興味喚起がテレビの役割だとするのなら、テレビの広告単位としては15秒か30秒のCMが多いので、伝えたいメッセージを徹底的に絞り込んで強い興味喚起だけを行い、残りの情報はWebなどのデジタルで補完して行く世界になっていると思います。

 ただテレビ局の人間は、テレビの延長線上にデジタルを考えている傾向があります。なぜならテレビがどのようにネットに移し変えられるか、という観点から設計した方が早いからです。

 他方、テレビ局以外の業界では、デジタルはデジタルから発想した方が良いと考えられていると徐々にテレビ局の人間も分かってきていますので、今後はデジタルから発想した設計図のようなものが必要になってくると思います。具体的には素材の差し替えの問題だったり、「TVer」上は長尺の効果的・説明的なCMが流せるようにしたり、クリッカブルな動画広告から直接アクションをしてカートに商品を入れられたりする、などです。

 しかしテレビとネットをつなげるだけでは広告価値としてテレビの意味がないため、いかにデジタルの新しい仕組みを作って広告主にサービスを提供できるかが、これからの鍵だと考えています。

安藤氏:テレビCMのフォーマットや、伝え方も変える必要があるということですね。生井さんも「今のテレビCMでは、従来製品との差分情報くらいしか伝えられない」と仰っていました。

生井氏:デジタル独自の広告モデルを考える一例として、弊社の某シャンプーで楽天さんと一緒に行った、クリエイティブテストがあります。

 一方はテレビCMと同じように商品の世界観を作り込んだもの。もう一方は、全くテイストが異なるハウツー動画です。その2種類のCMをデジタル上で流し、どちらがより多く見られ、コンバージョンまでの購入率が高いかというテストでした。

 結果は後者のハウツー編の方が、より多くのユーザーに見られました。どちらが良い悪いではなく、デジタルとの相性だと思います。

 先ほど盧さんからユーザーがEコマースを使う理由に関してお話がありました。弊社でも重くかさばるベビーおむつなどはEC化率が高いのですが、同様に薄毛や白髪など悩み系の商品もEC化率が高い商品です。

 いわゆる店頭で買いづらい商品も、EC化率が高くなるようです。つまりシャンプーもそのような悩み系にクリエイティブを少し振ると、見られる可能性も購入率も上がると考えられます。ユーザーが求めている情報が想定とは異なると分かったケースです。

 

 

ECサイトの使い分けをするユーザー

盧:花王さんの某シャンプーのテストは、「楽天市場」の中で二つのクリエイティブを出して、購入までの流れを比較されたということですよね?

 「楽天市場」は、「広く知られていない商品を、セールやイベントなどの企画を通して訴求し、ユーザーに1つでも多くの商品やお店に接触してもらう」というユーザー体験を提供しています。そのため来訪されるユーザーも、他のECサイトと使い分けていらっしゃる方が多いです。そして「楽天市場」で購入するときは、他のECサイトでお買い物をされる時よりも商品のことをしっかりと調べてから購入をされています。つまり「楽天市場」は、商品について深く知りたいというユーザーと非常に相性が良いのです。

 「楽天市場」の商品購入ページは、長いほど良いといわれています。商品について隅々まで知りたいユーザーにとっては、長いページに記載された詳細な情報が評価されるのです。

 花王さんの某シャンプーのクリエイティブテストについても、「楽天市場」に来ているユーザーは、興味を持った商品の情報を詳しく調べて買うといった行動を取られるため、ハウツー動画と相性が良かったのだと思います。

安藤氏:楽天さんは、購入の一歩手前の詳細や選択をするためのメディアとしても機能し、そのような情報を求めるユーザーが来ているということですね。


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安藤 聖泰 氏

株式会社LivePark 代表取締役社長

1997年 日本テレビ放送網株式会社入社。地上デジタル放送、ワンセグ放送の立ち上げやインターネット関連サービスの企画をはじめとする放送通信連携サービスに携わる。2010年よりIT情報番組iCon(アイコン)のプロデューサー。2015年5月株式会社HAROiDを立ち上げ、代表取締役に就任。2019年8月株式会社HAROiDを分社し株式会社LiveParkの代表取締役に就任。

生井 秀一 氏

花王株式会社 先端技術戦略室 マネージャー

1999年に花王に入社。12年間の営業を経てヘアケア事業部に異動し、今年発売50周年を迎えるメリットシャンプーのブランド担当に。2015年にEコマース担当となり、現在先端技術戦略室所属。

下川 猛 氏

株式会社フジテレビジョン 総合事業局イベント事業センター
ライツ事業戦略部プロデューサー兼コンテンツ事業センターコンテンツ事業室

2001年に読売広告社に入社。7年間代理店営業を行う。2007年にフジテレビ入社。デジタルや編成などの部署を経て現在はIPコンテンツ業務、配信オリジナルコンテンツ制作を担当。

盧 誠錫

楽天グループ株式会社 グローバルアドディビジョン 市場ソリューション推進部 ゼネラルマネージャー
楽天データマーケティング 執行役員

1999年にコンサルティングファームに入社。2006年にWebサービスのスタートアップベンチャーを立ち上げ、動画を活用した多数の Webサービスの立ち上げ・運営に携わる。2013年に楽天に入社。