購買データに基づかない全てのマーケティングは無駄である

楽天グループ株式会社 副社長執行役員CRO
メディア&スポーツカンパニー プレジデント
楽天データマーケティング株式会社 代表取締役社長
有馬 誠

新たなマーケティングの世界へ

 「広告の結果がデータで明確にわかる」。1996年からインターネット広告事業に携わって以来、ずっとそう言い続けてきました。しかし22年経った今、それが果たして広告主にとって意味のある指標として充分に機能しているかというと、決してそうではない。充分ではないどころか、アドフラウドやビューアビリティ、ブランドセーフティなどの問題が続出しているのが現状です。特にモバイル広告は、そもそもユーザーから愛されていない。時には邪魔だとさえ思われているでしょう。

 楽天が広告事業の拡張へ乗り出した昨年。三木谷から私に楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)と株式会社電通のジョイントベンチャーの社長をやってくれないかと話がありました。これはおもしろい。購買データやIDなど、楽天が持つビックデータをうまく活用できれば、問題解決ができるのではないか―—。

 その思いは正解でした。我々は、特に企業ブランドのマーケティングに携わる方々に対し、最適なソリューションを提供できると確信しています。

広がり続ける楽天エコシステム(経済圏)

 1997年、「楽天市場」の開設からスタートした楽天は、今や70を超える幅広いサービスと世界12億人以上のユーザーに利用される「楽天エコシステム(経済圏)」を構築することに成功しています。

 楽天の国内EC流通総額は年間3.4兆円、店舗数は4万6千以上(2018年6月時点)。また「楽天カード」においては、オンラインのみならずオフラインでも頻繁に利用され、今や日本一の取扱高となりました。「楽天ペイ」なども含め、楽天IDとPOSデータの連携による決済手段は、どんどん広がりを見せています。

 そして来年の春には、4社目の事業者として、MNO、つまり携帯通信事業のサービスを開始します。さらには、物流サービスの取り組み「ワンデリバリー」にも積極的に投資していきます。出荷から配送、送り届けるところまで全て楽天が行うということです。

 このような大きな動きにより、楽天エコシステム(経済圏)がますます広がっていけば、当然、集まるデータも増えていきます。「Rakuten Marketing Platform」で活用していくのは、まさにこの膨大なデータです。

 

「楽天エコシステム(経済圏)」約9700万の楽天会員ID

 

CPCからCPPへ

 メーカー各社が抱えているデジタル広告の課題は、売上にどこまでつながっているのかわかりにくい点にあります。

 自社ホームページで実際に販売をしているメーカーがずいぶん増えました。DSP広告を利用し、広告が配信されたいろいろな媒体からのクリックでサイトへの誘導を図っていますが、アドフラウドによる無駄なクリックや課金、あまり好ましくないサイトに広告が貼られるといったブランドセーフティ問題も発生しています。販売をしていないホームページなら尚のこと、これでは投資対効果は不明確です。それにも関わらず、CPC(Cost Per Click)で評価をしているところがとても多い。問題の源泉はそこにあります。

 そこで楽天は、CPCではなく、売れたかどうかを起点にしてPDCAを回すCPP(Cost Per Purchase)の仕組みを整えました。

 楽天の広告配信プラットフォーム広告を出していただくと、「楽天市場」を中心に配信します。加えて、他の媒体も使う場合でも、クリックを「楽天市場」の商品紹介ページにリンクさせ、自社サイトではなく、「楽天市場」の中の商品購入につなげます。そのため、購買に至ったかどうかがはっきりと分かるのです。

 

楽天のアプローチ

 

 楽天自身の広告面は全てコントロール下にあるため、ブランドセーフティも守られます。その後、購買貢献度に基づいてPDCAを回し、購買につながらなかったところにはあまり配信しないようにする。このような運用を繰り返すことで、最終的には購買貢献度の高いところだけに広告が配信されるという世界が実現します。

 自動車パーツ企業様の例を紹介しましょう。クリック数は40%減りました。しかし、商品ページ到達数は1.6倍、さらに購買数は4倍に上り、まさに購買につながるところに配信した結果となりました。CPPの効率の良さを想像できます。

 

自動車パーツ企業様の事例

 

「楽天市場」にホームページを作る「RMP - Brand Gateway」、次のアクションへつながるデータを提供「RMP - For Brands」

 次に自社ホームページについての提案です。果たしてオウンドメディアで充分な購買データを得られているでしょうか。集めたデータをDMPで管理し、CRMでさらに配信するサイクルにはけっこうなコストもかかるでしょう。

 そこで、自社ホームページの出先を「楽天市場」の中に作る、もしくはサイトを移すという方法を提案します。「RMP - Brand Gateway」、「RMP - For Brands」という商品です。既存のブランドサイトのクリエイティブの活用はもちろん、私共から売れるサイト作りをアドバイスすることも可能です。

 具体的には、サイト内に誘導枠を設け、「楽天市場」のほか、さまざまな媒体からそこへ誘導を促します。次に、「購入する」「今すぐチェックする」などで個別の商品ページ等にリンクし、購入してもらう仕組みです。現在、すでに20数社のブランドが「楽天市場」にサイトを設置しています。

 自社ホームページへの誘導と比べ、一番変わるのは集客コストです。第三者による調査結果の例では、接触者数は約10倍、接触回数では3.5倍、平均滞在時間はなんと8.5倍という好機の増加がありました。

 

「RMP - Brand Gateway」購買意欲の高いユーザーが集まるショッピングメディアで製品情報を効果的に訴求

 

メディアとしての楽天市場-企業の自社サイトと比較し圧倒的な閲覧数と時間

 

 ここからは、「RMP - For Brands」を活用した展開が重要です。これは、次のアクションへつなげていただくために、「楽天市場」内のサイトに来たユーザーのプロファイルや購買履歴などのデータを活用します。加えて、概況分析や競合製品との比較レポートといった各種分析をほぼリアルタイムに見ることができるダッシュボードも提供します。

 実際利用していただいている企業様から、ここまでデータがわかるのかと、喜びの声を頂戴しました。得られる購買データはあくまでオンラインのものですが、リアルの店舗におけるデータと相関性があるとも言っていただけました。オフラインへの活用は私共の狙いでもあったので、大変嬉しい言葉でした。

 

「RMP - Brand Gateway」管理画面イメージ

 

 「RMP - For Brands」を含む「RMP - Brand Gateway」は常設してこそ意味があり、対前年比などとの比較もしていただきたいことから、年間プランをお勧めしています。なお、現在、商流を限定させていただいているため、詳細は営業担当にご相談ください。

 

最適なターゲットへの広告展開「RMP - Customer Expansion」

 「RMP - Customer Expansion」は、ある購買者をシード(種)とし、そこからAIのマシンラーニングを使って楽天の約9,900万IDにおいて拡張し、シードと類似した傾向値を持つ人を探し出し、広告配信します。拡張先の約9,900万の楽天IDと、100名単位のデータサイエンティストを抱える研究所を持つ楽天だからこそ生まれた、非常に楽天らしい商品です。

 例えば、「楽天生命」に加入した人が100人いたとします。損害保険の広告配信を考えたとき、生命保険に関心があるその100人のプロファイルに似た人を探し出して広告すれば、単なるプロファイルターゲットよりも数倍の効果が期待できます。実際、社内では成功実例が出ており、技術は検証済です。

 また、拡張精度を90%で購入者100人と一致させようとするとある程度しか拡張できないかもしれませんが、拡張精度を70%に落とせば、一挙に1何倍も増やせる場合もある、そういったコントロールも可能です。

 

「RMP - Customer Expansion」楽天のビッグデータを分析・活用するAIエージェント(Rakuten AIris)

 

より良い「楽天市場」へ向けて、世界展開も視野に

 購買データに基づく広告配信には多くのメリットがあることがお分かりいただけたでしょうか。広告効果はもちろん、アドフラウドや無駄なコストもなくなり、安全安心かつ、デジタルマーケティングの本来あるべき姿が見えるのです。

 これは、ユーザーから見ると、自分の関心のない広告を見ずにすむ大きなメリットもあります。冒頭に申し上げた「ユーザーに愛されていないデジタル広告」が減るのです。また、広告面を提供するパブリッシャーにも恩恵があります。一般的にユーザー滞在時間の長い、しっかりと作りこまれたサイトにおける広告は購買につながりやすいとのデータがあります。購買データを指標とした広告は、クリック至上主義でとにかくクリックが「多く」発生するサイトにクライアント予算が集中してしまい、しっかり作られたサイトにお金が落ちないという問題の解消にもつながるわけです。

 Rakuten Marketing Platformは、認知・興味関心・購買・リピート・ファン化という一通りのステップに対してソリューションを提供することで、まさにデジタル広告事業の理想的な世界を実現していくプロダクトラインナップなのです。

 先日、アメリカのサンフランシスコで楽天の事業を知ってもらうためのカンファレンスを開催しました。海外顧客2,000人以上が集まり、非常に盛り上がりました。

 近い将来MNOにも参入し、楽天市場の機能をさらに上げ、世界でもしっかりと収益を上げつつ、楽天市場をより良い市場にすることは、皆さんの広告、マーケティングの場として、非常に良い場になるということです。世界への広告展開も視野に入れています。今後の楽天のインターネット広告事業にご期待下さい。

グラフィックファシリテーションで見る「購買データに基づかない 全てのマーケティングは無駄である」

グラフィックファシリテーションで見る「購買データに基づかない 全てのマーケティングは無駄である」

グラフィックファシリテーションで見る「購買データに基づかない 全てのマーケティングは無駄である」

 

有馬 誠
有馬 誠Arima Makoto
楽天グループ株式会社 副社長執行役員CRO メディア&スポーツカンパニー プレジデント
楽天データマーケティング株式会社 代表取締役社長


1956年、大阪市生まれ。京都大学卒業後、倉敷紡績株式会社(クラボウ)入社。株式会社リクルート、ヤフー株式会社 常務取締役、グーグル株式会社 代表取締役を歴任。2017年7月、楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)副社長執行役員兼CROに就任。同年、楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)と株式会社電通の互いの資産・知見を融合したジョイントベンチャーの楽天データマーケティング株式会社 代表取締役社長に就任。2018年7月 メディア&スポーツカンパニープレジデント就任。