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顧客価値理解に基づくマーケティング:CustomerDNA 、Rakuten AIrisの事例

楽天株式会社 執行役員CDO
北川 拓也

ユーザー像を理解するための鍵

 楽天グループ全体のチーフ・データ・オフィサーとして、グループ全体のデータの統括・戦略の策定を担っている北川拓也です。本日は、楽天のビッグデータを活用することで、いかに広告主企業様のマーケティングに寄与していくか、についてお伝えします。

 私たちは、約9,900万の楽天IDを分析することで楽天会員のユーザー像を理解しています。そこで重要視しているのは、有限のリソースであるお金と時間がどのように使われているのかを理解することです。これこそが、楽天会員一人ひとりが何を大切にして生きているのかを理解する鍵になります。

楽天経済圏の魅力

楽天経済圏の魅力

 

 日本の消費総額は約350兆円。内、楽天経済圏のグローバル流通総額は12.9兆円です。ざっくりと楽天は約3%の流通を把握していることになります。また、10億時間というサービス利用時間は、楽天にログインしている人に限ると1人あたりのインターネット利用時間の約4%強。つまり、お金や時間といった有限のリソースのうち約3~4%を、楽天は把握できていると考えています。

 

日本の業界全体の年間家計支出

 

 これは日本の消費総額約350兆円の内訳と、それぞれに該当する楽天のサービスを示したものです。私たちは「楽天経済圏」の中で、様々な業種にわたる多種多様なサービスを提供し、集まったデータを分析することで楽天会員像を理解しています。

 そして、この楽天経済圏の膨大なサービス利用データに、楽天会員一人ひとりの属性データを紐付けたものを、Rakuten CustomerDNAと呼んでいます。

Rakuten CustomerDNAを使ったマーケティング

Rakuten CustomerDNA

 

 Rakuten CustomerDNAは、年齢・性別など、550以上の特徴を持っています。これにより、デモグラフィックなライフステージでは分からないことをより深いデータからあぶり出し、広告効果を上げる特徴を見つけることが可能です。

 「楽天ミュージック」で活用した例を挙げましょう。「楽天ミュージック」継続利用ユーザーと、楽天の平均的なユーザーを比較したものが以下の図です。デモグラフィックなライフステージに大きな差異は見られませんでしたが、Rakuten CustomerDNAでさらに深掘りすると、「書籍の購入が3倍近い」「ゲーム購入者が非常に多い」そして「音楽用品購入者が多い」ということが分かりました。

 

Rakuten CustomerDNA

 

 このようなアプローチは、広告において非常に汎用性が高いものです。「Rakuten Marketing Platform」においても、今後様々なプロダクトに組み込んでいく予定です。

 

Rakuten CustomerDNA

 

 実際に、Rakutne CustomerDNAを活用した事例を二点ご紹介します。

 一点目は、いわゆるパーソナライゼーション。「正しいメッセージもしくはプロダクト」を、「正しいお客様に届ける」こ;とです。マーケティングに携わる方は、新規商品を開発する際に、まずペルソナを作り、対象となるセグメントへの訴求方法など仮説をたてると思います。 例えば5、6個の仮説を立てた場合、どのメッセージを使用してマス・マーケティングを進めるか悩むことはありませんか?そのような時、楽天のプラットフォームでは、全ての仮説に対して「どのセグメントにどのメッセージが刺さっているのか」もしくは「刺さらないのか」を、具体的にデータを用いて確認できるアルゴリズムを開発・提供しています。

 二点目は、「Rakauten Alris」。ターゲットと類似した傾向値がある人を楽天IDの中から見つけ出し、そこにターゲティングをするプロダクトです。「Rakuten Alris」を使用すると、通常の3~4倍のコンバージョン効果がでる実績が作れています。

裁定機会(Arbitrage)を発見する力を持つデータ

 「データは21世紀のオイルである」と言われていますが、私は「データの価値は、見えていない裁定機会(Arbitrage)を発見する力にある」とも考えています。

 例えば、会社の価値判断や投資において。データを通して世間の評価との差異に気づくことができれば、株などで利益を生み出すことが可能です。

 実際に最近ヘッジファンドは、サテライトを株取引に利用しているそうです。衛星経由で小売店の駐車場の混雑具合を見ることで、四半期の発表より先に売り上げを予想して年間数パーセントの利益を得ているそうです。

 

データの価値とは?見えていない裁定機会(Arbitrage)を発見する力

 

 中国の「芝麻信用」のように、最近では人の価値もデータで扱われるようになってきましたが、私たちが目指しているのは「人のアテンション価値の本質的価値を見極める」ことです。様々な方が、思い思いのタイミングで、多種多様なプロダクトや広告を見られる中で、「個々人の、その時々の、集中力の価値」というものは大きく違ってくるでしょう。その価値の違いをデータによってしっかりと発見し、マーケッターの皆様にお届けできるようなプラットフォームを目指したいと考えています。

 広告主企業様の顧客確保に貢献すると同時に、エンドカスタマーの時間も大切にする。そのような企業として、引き続き頑張っていく所存です。

グラフィックファシリテーションで見る「顧客価値理解に基づくマーケティング」

グラフィックファシリテーションで見る「顧客価値理解に基づくマーケティング」

 

北川 拓也
北川 拓也Kitagawa Takuya
楽天株式会社 執行役員CDO


1985年、兵庫県生まれ。ハーバード大学を卒業後、同大学院物理学科で博士課程を修了し、理論物理学者として20本以上の論文を出版。2013年4月より楽天株式会社執行役員。データサイエンスの組織を立ち上げ、現在チーフデータオフィサーとしてグループ全体のデータ戦略と実行を担当し、インドやアメリカを含む海外拠点の組織も統括。データ基盤作りや科学的な理解に基づく顧客体験の提供、ビジネスイノベーションなどを推進している。

CustomerDNA 、Rakuten AIrisの事例

楽天株式会社 グローバルデータ統括部 データサイエンス部
ヴァイスマネージャー
溝上 弘起

 データサイエンス部の溝上です。「マーケッターのためのAI エージェント」というコンセプトで、「Rakuten AIris」のプロダクト開発を担当しています。

見込み”顧客”をみつけたい

 マーケッターの皆さまにとって「見込み顧客の発見」は共通の課題だと思います。

 では、「見込み顧客」とはどのような人でしょうか。たとえばある商品を、電車で偶然隣に座った人が購入しそうかどうか、分かりますか?

 予測するのはかなり難しいと思います。

 しかし対象を、友人や同僚に変えるとどうでしょう。少し予測しやすくなったのではないでしょうか。なぜ簡単になるかというと、皆さんが友人や同僚のことを知っているからです。その人が何に興味を持っているか、どんな趣向を持っているか知っているから、予測しやすくなったのです。

 これは、2つのポイントから考えることができます。

 まずはデータ。その人のデータを自分がどれだけ持っているか、です。そしてもう1点はアルゴリズム、いわゆるパターンです。例えば「高級ブランドの鞄を買っている人は、もしかしたら高級なボールペンを買うかもしれない」というような考え方です。その人の購買行動や行動パターンを、皆さん予測しているのです。「Rakuten AIris」も、「楽天のデータを使ってアルゴリズムを作ったら、見込み顧客を見つけられるのでは」という仮説が出発点になっています。


 もう1点、考えてみてください。
最も精度高く顧客を見つけられるのは、以下1~3のどれでしょうか?

 

最も精度よく「顧客」をみつけられるのは?

 

 1.検索のデータ、ある人が何かを検索してサイトに訪れているというデータを持っている会社(「検索+「Cookie」)
 2.誰かが何かポストされたものに「いいね」をしているというデータを持っている会社(「いいね」+「ユーザーID」)
 3.誰かが何かを買っていると。買って身につけているというデータを持っている会社(「購買」+「ユーザーID」)。

 答えは、3の「購買」+「ユーザーID」を持っている会社だと思います。

AIエージェントが、見込み”顧客”をみつける

 前述「3」の観点から、「楽天のデータを使って AI エージェントが見込み顧客を見つけるというソリューションができないか」と考え製品化したのが、「Rakuten AIris」です。

 

購買行動を機械学習しそのモデルを作ることで、楽天ID全体の中から同じような行動パターンを見つける

 

 例えばある商品を買っている人が5万IDいるとします。まず、その5万IDの購買行動を機械学習します。そしてそのモデルを作ることで、約9,900万の楽天ID全体の中から同じような購買パターンを見つけることができるというものです。

 そして抽出された同様の購買パターンを持つ人に向けて、広告を届けた方がより買ってもらえるのではないか、というのが私たちの仮説です。

 事例をいくつかご紹介します。

 

「Rakuten AIris」を用いて特定したユーザーのコンバージョンレートは約4倍

 

 まず、一番精度が高いと考えられる「3」の「購買」+「ユーザーID」と、「1」の「検索+「Cookie」を比較した事例です。ある製品を買った人がいます。「Rakuten AIris」で「楽天市場」での購買データを使って行動が似ているユーザーを特定しました。他方、検索データを使って他社のアルゴリズムで似ているユーザーを特定しました。それぞれ特定したユーザーに対し DSPで広告を配信したところ、「Rakuten AIris」を用いて特定したユーザーのコンバージョンレートは、そうでない場合と比較して約4倍という結果がでました。


 次の事例は継続利用してくれる顧客の発見です。

 

獲得した新規ユーザーの3ヶ月後の継続率は、購入ユーザーと比較して「Rakuten AIris」が見つけたユーザーが約3.6倍

 

 これは「楽天ミュージック」での検証結果です。「Rakuten AIris」は、アルゴリズムが見つけた、3ヶ月以上の継続利用者と行動が似ているユーザー。そして比較対象は、過去にCDを購入したことがあるユーザーのセグメント。それぞれに対して広告を配信した結果、獲得した新規ユーザーの3ヶ月後の継続率は、CD 購入ユーザーと比較して「Rakuten AIris」が見つけたユーザーが約3.6倍という結果となりました。


 最後は、楽天の特徴を生かした事例です。

 私たちは、「楽天市場」で購入したものをお届けするため、住所情報をお預かりしています。そのため、ユーザーの許諾をいただいたうえで、オンラインの広告だけでなくダイレクトメールを送付することも可能です。

 

楽天では、オンラインの広告だけでなくダイレクトメールの送付も可能

 

 「Rakuten AIris」で見つけ出した楽天モバイル契約者と購買パターンが似ているユーザーと、楽天会員ランクが高いユーザーそれぞれにダイレクトメールを送りました。結果は、「Rakuten AIris」で抽出したユーザーのコンバージョンレートが3.6倍でした。

 このように、効果を示す実績が次々に生まれています。一刻も早く「AI が理解して、人間に結果を教えてくれる」段階を実現し、マーケッターの皆様に様々な場面で活用いただけるAI ソリューションに育ててまいりますので、「Rakuten AIris」の今後に是非ご期待ください。

グラフィックファシリテーションで見る「CustomerDNA 、Rakuten AIrisの事例」

グラフィックファシリテーションで見る「CustomerDNA 、Rakuten AIrisの事例」

 

溝上 弘起
溝上 弘起Mizokami Hiroki
楽天株式会社 グローバルデータ統括部 データサイエンス部 ヴァイスマネージャー


1980年、神奈川県生まれ。インサイトテクノロジー社にて、データベースエンジニア、マーケティングマネージャーなどを経験。2017年、ロンドン大学ゴールドスミス校DESIGN AND INNOVATIONコースの修士号を取得。2017年9月、楽天に入社後、「Rakuten AIris」のコンセプトメイキング、プロダクトデザインに従事。