課題を解決する「宣伝/商品紹介/販売の一気通貫での購買データの活用」
有馬:私が常々唱えている「購買データに基づかないマーケティングは無駄である」ということに対して広告主側からの忌憚ないご意見を伺いたく、本日中村さんをお招きしました。中村さん、まずポーラでされているお仕事と、代表幹事をされている「Web広告研究会」について教えてください。
中村氏:弊社は訪問販売に代表される国内のビジネスモデルのイメージが強いですが、現在はエステサービスも行うサロン型ショップ、百貨店コーナーや公式オンラインストアを中心に化粧品・スキンケア・健康食品などの商品を販売しています。またBtoB事業でのホテル、旅館、スパリゾートなどへのアメニティー商品展開や、アジアを中心とした化粧品事業の海外展開も行っています。
「Web広告研究会」は、「公益社団法人日本アドバタイザーズ協会(旧称:日本広告主協会)」の関連団体であり、Web広告やマーケティングなどデジタルに関わる企業を中心に活動をしている団体です。現在11の委員会と4つのプロジェクトがあり、403の会員社(昨年11月時点)で構成され今年20周年を迎えました。
有馬:7月29日に今まで「日本の広告費」に含まれていなかった「物販系ECプラットフォーム広告費」が1123億円(2018年度)であるとの調査結果が、電通さん等3社よりリリースされました。楽天はこの中で6割強ぐらいを占めていると想定されます。なお、物販系以外も含む楽天全体としての昨年の広告取扱高は963億でした。
楽天は、ECで誰が何を買ったのかの情報を蓄積しています。最近ではEC以外でも、ドラッグストアなどで「楽天スーパーポイント」が使えるようになり、楽天IDとオフラインの購買データも連携するようになってきました。今後さらに価値のあるデータになっていくと同時に、広告・宣伝のみならず商品開発などにも幅広く活用されていくだろうと思っています。
この点に関して、生活者向けメーカーのマーケティング担当者を対象に調査を行いました。その結果、流通に関しては、流通チャネル・販売店支援、卸・販売店管理(ロイヤリティーなど)など、販売店をいかに支援して売り上げ向上につなげるかが課題になっていました。販売促進においては、店頭でのプロモーション企画に悩んでいると同時に、以前から言われている広告効果測定が課題となっていることが分かりました。
これらの課題は、楽天のデータとうまく組み合わせることで解決します。楽天IDと連携しているデータであれば次のアクションを設定することができ、購買貢献を基準としたPDCAが回せるのです。
中村氏:こちらの図表は、いくつかの項目を組み合わせて「お客様の分類」を作成し、顧客体験における期待を記載したものです。列に記してある「タイプA~C」は、異なる性格を持った人をイメージしてください。行の「体験1~22」はジャーニー上の顧客接点となります。
図表全体が意味するのは、「タイプA~C」は、それぞれの顧客接点に対する期待値が異なっていることになります。「タイプA」は「体験1」に対して高い期待が見て取れますが、「タイプB」と「タイプC」にとってはあまり寄与しない項目です。逆に「体験4」になると「タイプA」の期待はひくように見て取れますが、「タイプB」「タイプC」にとっては重要な体験といえます。
有馬:この「体験1」や「体験4」は、例えるとするならどのようなことでしょう?
中村氏:例えば「マス広告でのブランドイメージ」や「Webサイトの分かりやすさ」、などですね。
有馬:この図表を使ってターゲティングをするには、何か方法がありますか?
中村氏:やはり、お客様の行動データをどのようにつなぎ合わせていくかという点を軸にしつつ、「タイプA~C」それぞれが期待することに応えられるように体験を設計することが必要だと考えます。
有馬:楽天にも近いアイデアがあります。よく知られている「イノベーター理論」を活用したものです。新商品をすぐに購入してくださる「イノベーター」、比較的早く購入される「アーリーアダプター」、平均より早く購入される「アーリーマジョリティー」などに関して、私たちは明確なデータを蓄積しています。類似商品であれば「イノベーター」は常に「イノベーター」ですので、そのデータを使い、類似分野の新商品を発売する際、まず「イノベーター」を中心にマーケティングします。その後徐々に「アーリーマジョリティー」向けの広告を増やし、続いて「アーリーアダプター」向けの広告へと移行していく。このように濃淡のあるマーケティングを行えば、大幅に売り上げが伸びるのではという話もあるのですが、いかがでしょうか?
中村氏:非常に面白いですね。新商品発売時の「イノベーター」の動きが、「アーリーアダプター」や「アーリーマジョリティー」の感情が動く契機になることもあります。セグメントを分けながら、時間軸と組み合わせて戦略を立てられるのは、非常に興味深いです。
有馬:ターゲティングに関しても、従来のプロファイルやセグメントだけでなく、今後は中村さんの図表にあるような「タイプ別」や「時間軸」も新しいセグメントになる。そのように思います。