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RMP - AdRollでパフォーマンスを最大化できる理由

楽天アドロール株式会社 代表取締役社長
香村 竜一郎

楽天アドロール株式会社とは

 2018年11月1日、楽天は米国サンフランシスコに本社があるAdRoll Groupと、新会社「楽天アドロール株式会社」を設立しました。私はその代表取締役社長に就任し、実は楽天グループに入ってまだ間もないのですが、いよいよ楽天と面白い取り組みができると大きな期待を抱いています。

 まずは、AdRollの紹介をしましょう。アーロン・ベルが2007年に創業し、企業のマーケティング支援の会社からB2Cを専門にビジネスのグロースプラットフォームへと成長。現在、AdRoll Groupとしてニューヨークやシドニーなど、世界7つの都市を拠点に活動しています。ユニークユーザー数や予算の下限といったしばりがなく、気軽に登録・開始でき、誰でも使いやすいソリューションを提供していることから、取引先には中小企業も多く、業種も幅広いことが特徴です。取引社数は、広告主が37,000社以上、代理店が1,000社以上、AdRoll Group経由で生み出されたクライアントの売上は、年間で2,460億ドルにのぼります。

 私は、2014年にAdRoll株式会社を日本法人として立ち上げ、代表取締役社長を務めてまいりました。楽天と一緒に仕事を始めたのは、2016年。「楽天市場」の店舗向けのソリューションをOEM提供したことがきっかけでした。まさに、企業規模や業種をまたぎ、どんなところでも効果が出せるというポイントが、4万店以上もの店舗を持つ「楽天市場」に見合うのではないかと採用されたのです。

 そして毎月の高いKPIを継続的にクリアしていくうち、楽天のID、つまりユーザーデータを活用すれば、さらにパフォーマンスが高まるのではないかと議論が始まりました。そこで、楽天とAdRoll Groupによる合弁会社設立という結論に至ったのです。AdRoll株式会社は楽天アドロール株式会社と社名を変更、概要は下記のとおりです。


楽天アドロール株式会社の概要

• AdRollが楽天グループに参画することで、楽天のデータを活用できる環境を構築
• AdRollの既存アセットと楽天のアセットを融合し、さらなる競合優位性を持つプロダクトを開発
• 楽天に営業、アカウントの運用を移し、新会社では日本向けの開発に注力して新サービス提供

• 社名:楽天アドロール株式会社
• 住所:〒158-0094 東京都世田谷区玉川1-14-1 楽天クリムゾンハウス内
• 提供商品名:RMP - AdRoll
• 経営陣:代表取締役会長 有馬 誠、代表取締役社長 香村 竜一郎
• ロゴ:

楽天アドロール株式会社のロゴ

楽天アドロールと楽天の役割分担

• 楽天:営業窓口、アカウント運用
• 楽天アドロール:プロダクト開発、提供

AdRollで提供してきたソリューションとは

 AdRollには、もとよりデータ活用をキーワードにしたミッションがありました。

 AdRoll’s Original Mission

 大小を問わず、あらゆるビジネスにおいて、顧客データを、
 優れたパフォーマンスのマーケティングへと換えるお手伝いをします。

 このミッションのもと、「適切な広告を、適切なタイミングで、適切な人に対して表示できるソリューションを提供する」という価値を提供してきました。そのやり方には、インプレッションの価値を最大化したいという、もともとの思想をベースにした非常に簡単なアルゴリズムがあります。

 ユーザーの行動を分析し、
 購買パネルのステージに合わせ、
 広告のインプレッションを最適化し、
 効果を最大化する。

 この実行により、ユーザーの興味が醸成し、ライフタイムバリュー(LTV)、ROAS (Return On Advertising Spend)、新規率、売上単価など、ビジネスに直結する指標に影響を与えることができるのです。

 具体的に、楽天市場の店舗向けソリューションで得られた結果を紹介しましょう。呼び込んだユーザーを醸成することで、ROASを伸ばすことに成功した一例です。

楽天市場店舗向けソリューションでの結果

 

 各数値は、企業規模も商材も様々な店舗が13週以上、広告を掲載した結果の合計から出しています。小規模店舗が多いため、もともと持っているマーク数が少なく、そもそもリターゲティングができません。そのため、最初に新規のオーディエンスをとにかく呼び込んでいます(PR Clicks(赤))。マーク数(赤)がある程度たまるにつれて、リターゲティング(RT Clicks(青))が増え、徐々に逆転、ROAS(緑の線)が13週目に向かって伸びていきました。また、この結果から、ある程度の長期間、確実にしっかりと試みることがポイントになると考えられます。

なぜインプレッションが重要か

 グローバルでの数値になりますが、インターネット広告のクリック率はユーザー全体の約16%というデータがあります(2009年コムスコア調査)。認知・検討・購入にステージを分けたファネルで見た場合、理想的には、各ファネルにまんべんなく広告を配信し、常に新規のユーザーを混ぜながら、顧客を発掘していきたいと思われるかもしれません。しかし、ここでクリックにフォーカスをすると、クリックをするたった16%のユーザーにしかフォーカスできないということになります。しかも多くの場合、Last Clickで指標が取られています。

Last Clickに最適化するということは・・・

 

 最近のアドテクノロジーはとても優秀なので、クリックをしそうなユーザーへ広告が寄っていきます。つまり、16%というとても狭い範囲の人たちにのみ、同じ広告がどんどん回り始めるという現象が起り、さらにはしつこいリターゲティングなどによるブランド棄損の問題まで発生しています。実際、「CPA (Cost Per Action)はすごくいいのに、売上が全然上がらない」と広告運用担当者が頭を抱える姿を、私もよく見かけます。

 そこで、インプレッションを重要視したAdRollのソリューションを、リアルの世界に置き換えて説明しましょう。

インプレッションを大事にして、ファネル全体を考慮したソリューションだからできること

 

 例えば駅前にある店舗に誘導するための広告を打つとします。すでに店舗のレジに並んでいる人や、買い物を終えた人をターゲットにする必要はありません。AdRollがターゲットにするのは、駅にいる人たちです。駅にいる大勢の中から、買いそうな人、興味を持ってくれそうな人を特定し、お店の良さを伝えるためのコミュニケーションをしっかりとる、というやり方です。AdRollは、このようなソリューションを提供することで、購入の機会を増やしてきました。

 一方、クリックをベースに考えると、すでに購入を決めている人、購入した人も含めて誰でもいいから何度もクーポンを配るイメージが浮かびます。

 店舗からより遠い方から、発掘、転換、拡大という段階に分け、一気通貫したフルファネルのソリューションで、ユーザーの興味を醸成するというのが、AdRollのやり方です。

楽天アドロールで提供するプロダクト

 では、楽天アドロールとして、楽天のデータを使ったら何ができるのか。

RMP - AdRollの中期的コンセプト

 

 ファネルの上部分、紫の層を広げようとは思っていません。データを使って配信精度を上げることによって、ファネル全体を太くし、最終的には一番下の結果の部分を最大化することを我々は考えています。先々には、どういうユーザーがクリックし購入したのか、または購入しなかったのかなどをビジュアライズした結果も、皆さまにお伝えすることができるでしょう。

 RMP - AdRollが提供できる具体的な価値は、下記の3つです。

・クロスデバイス配信
 興味を持って訪れたサイトの情報を別デバイスでもタイムリーに提供。

・ID単位の配信制御
 他デバイスでのコンバージョン者に対する配信や、ブランド毀損につながる多重フリークエンシーを、デバイスを跨いでID単位で管理することで抑制。

・Prospecting配信
 楽天のデータを用いて「ユーザーが興味を持つであろう情報」を予測し、競合他社よりも高い精度で情報提供することで新規顧客を創出。

 会社はまだ設立したばかりなので、直近で提供できるのはクロスデバイス配信になります。かつてAdRollでもCookieベースでやっていましたが、今後はIDを使うことで、より精度が高まると期待しています。また、IDベースで配信するからこそ、ブランド棄損などにつながるような配信抑制も可能です。3つめのプロスペクティング配信については、例えば属性、購買データなどといったIDに付随するそのほかの情報を使用することによって、拡張精度を高めていきたいと思っています。

日本のユーザー向けインターネット広告に関する調査結果

 ここで、2016年末にAdRollが日本のユーザー向け行ったインターネット広告に対する消費者調査の結果をご紹介しましょう。

 まず、インターネット広告をクリックしないと答えたユーザーは約60%。しかし、この同じユーザーに「月1回、1,000円以上の買い物をオンラインでしますか」と質問したところ、80%以上が「購入する」と答えました。ということは、広告をクリックしなくても何か買っているということです。

 さらに、インターネット上で広告を見て購入した経験のあるユーザーに、なぜ購入したのかと質問したところ、65%が「以前から知っている商品・サービスだった」、「インターネット広告を見てその存在を知っていた」と回答。広告を見た後の行動に関しての質問では、41%が「すぐに購入する」、63%が「後日購入する」と回答しました。一般的にはラストクリックにフォーカスしがちですが、ユーザーは広告を見ただけでもしっかりと覚えていて、あとで行動をとっているということです。

 ネガティブなことを言えば、インターネット広告を見て不快に感じたことがあると回答したユーザーは77%にのぼりました。その中でも、しつこい広告や、例えば全画面を覆ってしまうようなユーザビリティを害する広告は、特に嫌がられ、実に52%のユーザーが「好感度が落ちる」と回答しています。

 クリックありきの考え方が正しいかどうかは、この調査結果を見る限りでも疑問です。一方で、インプレッションの重要性と、さらに言えば、クリックを考えなくてもいいという2点が浮き彫りとなりました。

成功するための指標設定

 最後に、インターネット広告で成功するための指標設定について、メッセージをお伝えします。

 とても大事なのは、KPIです。しっかりとしたKPI、または戦略を設定すれば、良いアドテクノロジーを的確に使うことができますが、もし使い方を間違ってしまえば、ハサミなどと一緒で、危険な方向や間違った方向に進むこともあるからです。

 私はこれまで、リターゲティングに期待することは何かと、クライアントの皆さんとお話してきました。すると、多くの方が「売上」と答えます。では、売上とは何か。因数分解をすると、最も単純には「客数×客単価」となります。

売上とは、最も単純には「客数×客単価」

 

 まず、客数を伸ばすには、当然、新規を入れるか、または休眠しているユーザーを復活させるかしなくてはなりません。客単価に関してはいろいろな施策が考えられますが、一番やりやすいのは既存客の客単価を上げることかと思います。

 さて、皆さんがKPIを設定するとき、新規獲得にリターゲティングを考えてはいないでしょうか。それでは意味がありません。そもそもリターゲティングとは、サイトに来たことがあるユーザーがベースの施策であり、新規獲得のものではないからです。しかし、意外にそこを混同して、新規獲得あるいは休眠復活に際して、リターゲティングに依存しているケースが見受けられます。

KPIを設定するとき、新規獲得にリターゲティングを考えてはいないでしょうか?

 

 新規は、ファネルの上層にあたります。この層を伸ばしたいのであれば、新規がどれくらい増えたがわかる新規セッション数をKPIの設定にもつこと。そして、ファネルの真ん中にあたる休眠復活に関しては、KPIをユニークのコンバージョン数に設定することを一番わかりやすく成功しやすい例としてご提案します。客数を増やすには、その数を見られるKPIを設定すれば良いということです。

 次に既存客について。ファネルでは、最下部の層にあたり、頻繁にサイトに来ている濃い客層といえるので、当然、ここではリターゲティングが最も有効な施策です。ただし、KPIや戦略の見直しは必要です。CVRなどは高いはずなので、例えば平均購入単価のような指標が適切でしょう。客単価を上げるために、広告として何をどのように見せていけば効果的か、具体的にはKPIをどう設定したらよいかを考えていただければと思います。

売上を伸ばすのに大切なことは、正しくKPIを設定し、ファネル全体を使うこと

 

 売上を伸ばすには、正しくKPIを設定し、ファネル全体を使うことが大切です。楽天アドロールでは、フルファネルソリューションを皆さんにどんどん進めていただければと思っています。

香村 竜一郎
香村 竜一郎Komura Ryuichiro
楽天アドロール株式会社 代表取締役社長


消費財やオンライン広告での営業マネジメントや店舗運営などの経験を経て、Google日本法人に9年間勤務。日本を含む、オーストラリア、ニュージーランドの新製品およびソリューション担当執行役員として市場の拡大に寄与。その後AdRoll日本法人の立ち上げに参画、2015年3月のAdRoll株式会社設立発表と同時に代表取締役社長に就任し、事業開発、営業戦略のみならず、顧客視点のデジタル広告ソリューションの啓蒙と普及に努めている。